第17話

 真顔で頷く二人に赤銅色の肌がさらに赤く染まる。やがて耐え切れなくなったかのようにぷるぷると震えだし、なりは絶叫した。

 腹の底から吐き出されたそれに、ぬいが耳を両手で塞ぐ。うつわはぐっと手元にあった枕を握った。


「なりぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

「驚かせやがってこのクマッチョ!」


 頬に手を当てムンクの叫びのポーズをとっていたなり。苛立だしさにうつわが握った枕をなりの顔面めがけて投げつけた。


 それは見事な放物線を描き、なりの顔面へとぽすりと当たった。


 そう、ぽすりと。けしてがっ、とか勢いがあったわけではない。あくまでソフトに、そう、当たったはずだった。


 ぽろっと、なりの片目が落ちる。


「ぎゃあああああああああああああ!!」

「うつわうつわうつわうつわうつわうつわうつわうつわうつわうつわうつわ!!」

「なりぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」


 なりだけが叫んでいたはずが一瞬にして阿鼻叫喚に陥る。涙目でうつわのTシャツの裾を掴むぬい。絶叫するうつわ。叫びながらだんだん筋肉がやせていくなり。どこの地獄絵図だと言わんばかりの光景が広がっていた。


 そうしてやがてしおしおと塩をかけられたナメクジのように小さくなっていき。筋肉は消え、骨と皮だけになったとき、ぽんっとファンシーな音ともに片目のとれた古ぼけたテディベアが部屋に転がっていた。


 呆然とその光景を見ていた2人だったが、ぬいが声をあげたことでうつわはぬいを振り返った。


「うつわ! 大変ですのよ! うつわ!」

「なんだよこんな近いんだから大声出さなくても聞こえてるって! っつか引っぱるなよ伸びる!」


 Tシャツの裾をぐいぐい引っ張るぬいに言うが時すでに遅し、もうびろーんと広がった後だった。

 これは家用にするしかないなとため息をつきながら、うつわはぬいに聞いた。

 呼ぶだけ呼んで内容を話さず、叱られてしょんぼりと肩を落とすぬいに。


「なにがあったんだよ」

「うつわが……その」

「……なんだよ」

「目をとったので、ぬいにるふれりかになる資格がきたらしいですのよ!」

「つまり?」

「ぬい、るふれりかになれますのよ!」


 嬉しそうにぬいはうつわに抱きついた。

 それを受け止めながら、さながら尻尾を振る犬のように無邪気に喜ぶぬいの小さな頭を、うつわはそっと優しくなでた。

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