第16話
カーテンを閉め切り、タイマーにしたはずのクーラーは切れていることから、寝始めて3時間はたっているのだろう。
ずしり、うつわの腹が重くなる。
ぐったりと重い身体ながらも、息苦しさにふと、うつわは目を覚ました。
真夏の午後、横を向くと隣でくうくうと小さな寝息を立てて寝ているぬいと、その奥にあるデジタル時計は15時22分を提示していた。
そうして目覚めた原因でもある重い腹の上を見たとき、うつわは固まった。
「うわあああああああああ!!!?」
「……!? どうしましたの、うつわ!」
横で寝ていたぬいがタオルケットを跳ね飛ばして起きる。
そうして、うつわの腹の上に居るものを見てぎょっと目を剥いた。2人も、朧気だった意識が一気に覚醒する。
「なんだこのキモイクマもどきマッチョ!」
「キモイクマ、しかもマッチョとは失礼なり! 某こそはなりなり!」
「……なり、ですの?」
「な……なぜ某の名を!?」
「今あんた自分で言ってただろ」
驚いたようにぴょんと跳ねうつわの腹から降りて後ろにずり下がるなり。引きつった笑顔で言いながら、うつわは痛そうに頭を抱えた。
そう、キモイクマもどきマッチョ。
頭はつぶらな瞳がかわいらしいアンティーク調のクマのぬいぐるみ。しかし、その頭から下は。赤銅の肌、鍛え抜かれ6つどころか12にわれた腹筋、筋肉でごうごつした下半身のみに黒いビキニパンツをはいている。その頭上には黒い矢印。悪意だ。それがぬいとうつわ、二人に向かって伸びていた。
頭はクマ、身体はマッチョという非情に気持ち悪い仕上がりとなっていた。
あんなのに乗っかられていたかと思うと、正直吐き気がするうつわだった。
「なんじゃありゃ」
「あの、うつわ」
「なんだよ?」
「その、るふれりかのお力があまりうまく伝わらない方もいらっしゃるようで。その・・・彼は半端なのかと」
「まじか」
「某を無視するんじゃないなり!」
ベッドの上で身を寄せ合いながらひそひそと横目で囁き合っている2人に、なりが切れたように怒鳴る。
腹の底にびりびりと響くようなそれに、思わず居住まいをただす2人。そんな2人に満足そうに鷹揚に頷くなり。
「ふっ……待たせたなり。歯車、いまぶち壊してやるなり!」
そうしてるふれりかになるのは自分だと。どこか喜びをかみしめた声でそう告げたなり。2人は言いたかった。むしろうつわに関してはのどまで出かかっていた。正座した膝の上でぐっと手を握る。誰も待ってないぞと、言いたかった。
「ははははははははははははははははは!!」
天井を仰いで哄笑をうつわの部屋に繰り広げるなり。2人はあまりの声量に絶句している。というか、お互いの顔を見てどうしようかと困った顔で顔を寄せ合っている。
どうしよう。本当に、絶望的なまでに2人の頭の中はそれでいっぱいだった。
「どうした?反応しないなり?」
だが2人は何も言わない。言わないと言うか言えないのだ。2人で顔を見合わせては、暑苦しい筋肉の塊ともいえるクマッチョ、なりをちらちらと見ている。
なりはやれやれと首を振った。
「なら、こっちから行かせてもらうなり!」
カーテンの隙間から入るわずかな光にきらりと光ったなりのつぶらな瞳。どしどしとその筋肉の塊のような太い足でベッドに歩み寄ってくる。3歩行った時だった。
うつわがおそるおそる手をあげたのは。
「ん? 命乞いなり?」
「いや、そうじゃなくて。もしかしてなんだけどさ、あんた」
気まずそうに目をなりの頭上に輝く黒い矢印を一瞥するとぬいを振り返るうつわ。視線を絡めて、何かを確認すかのように首を傾げる。と、ぬいも気まずそうにうんと1つうつわに頷いて見せた。
「日にち、間違ってないか」
なりがぴたりと固まる。
沈黙が、今まで哄笑の響いていた室内に唐突に落ちる。
言うならばし……んだろうか。誰も身じろぎ1つせず、なりを見ていた。なりのつぶらな瞳がうつむくことで隠される。誰も何も言わなかった。言えなかった。それ以上に、言葉以上に、目線で語っていた。
こいつ、素で間違えたのでは?と。
「え……今日20日じゃ……」
「今日、19日ですのよ」
「そうだぞ」
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