第13話

「まあ……仲間だしな、一緒に滝行した」

「仲間ですの!」

「ああ。ま、ちょっとは優しくなるかもな」

「嬉しいですのよ!」


 奇妙な連帯感、盟友ともともいうべき感情に、にへへと顔を崩して笑うぬいの頭を撫でてやるうつわ。

 それからふーふーと白湯の表面を冷まし一口含む。うつわとぬいはほぼ同時だった。


 じんわりと腹の底から染みこんでいくように温まる。白湯が身体に効く感触に、うつわとぬいはやっぱり同じくらいにふううううと深いため息をついた。やっと人心地ついた気分の2人は改めて周りを見渡すと、すっかり朝だった。


 きらきらとぬいの頭上の透明な矢印が周囲の景色を歪めながらうつわにむかって大きく伸びていた。


「で、これでいいのか」

「はい、ぬいも一緒にやったおかげでしょうか。ずいぶん力が溜まりましたのよ」


 嬉しげにほにゃほにゃと笑うぬい。そのぬいの頭上、うつわに向かって伸びる矢印をちらりと見てから、うつわはくしゃくしゃとぬいの赤子のように柔い髪の毛を撫でた。そうか、と呟く。きっといなくなってしまうであろう、この少女のことを考えて何となく寂しい感情がわき上がってきて。


 白湯の最後の一口を飲み干すころにはすっかり身体も温かくなっていて。なんとなく前の方向。今まで入っていた滝を見、空になったマグカップを指にひっかけながらぬいに問う。


「これでるふれりかになれそうか?」

「いいえ。まだですの」

「は?」

「るふれりかになるための絶対条件がそろっただけらしいですのよ。るふれりかになるためには、もう1つ必要なものがあるんですの」

「はあ!?」


 目を剥きながらぬいに向かって振り向く。先ほどまで幸せそうに崩されていた顔は苦虫何十匹かみつぶしたのか聞きたいくらいしかめられていた。


 まるで、そのるふれりかになるためのその必要事項が不本意だとでも言わんばかりの態度。不審そうに眉をひそめるうつわ。指にひっかけていたマグカップを腰かけていた木の根の上に置く。


 自分でるふれりかになりたいと言っていたのに、この様子ではまるで……


「るふれりかになりたくないのか?」

「なりたいですのよ! ただ……」

「ただ?」

「条件が、嫌なだけですの」


 泣きそうな声で、マグカップを両手で握りながらぬいは言った。


「ほかのるふれりか候補から、資格を奪いますの」

「は?」

「資格を、奪うために。その無機物はぐるまを壊しますのよ」

「なんだそりゃ」


 るふれりかって物騒だなと言いかけて気づく。ということは『ぬい』も壊される可能性があると言うことではないか。12年前から大切にしてきた、うつわの『ぬい』が。あの白い、綺麗な『ぬい』が。

 

 この少女もいなくなるのだろうか、一緒に滝行をした時間は、壊されてしまうのだろうか。それでもこの優しいぬいは、うつわの『ぬい』は。自分の願いのために他者を犠牲にすることは嫌なのだろう。


 そう考えると、知らずにぎゅっとうつわはこぶしを握っていた。

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