第7話
「それで、協力ってのは何をすればいいんだ」
ところ変わってうつわの家。クーラーのがんがんにきいたうつわの部屋。ベッドと勉強机、参考書と漫画が入った本棚に両開きの大きなクローゼット。小学校の夏休みの課題で作ったキーホルダー掛け。窓には青いカーテンが、エアコンから吐き出される冷たい風にわずかに揺れていた。
うつわは勉強机の椅子に、ぬいはベッドに腰かけていた。うつわのベッドは柔らかい方なのになぜ沈んでいないかが不思議だったが、人外だ。そういうこともあるのだろうと納得した。
両親は共働きで、帰るのは夜。妹の保育園は18時までで、兄の大学も同じ時間まで。一番人目につかない良い手だと思って、うつわはぬいを連れ込んだ。いや、言い方は悪いが。
児童公園にいてゆでたこになる可能性とまた泣きわめかれたの事を考えると、こちらの方が断然よかった。主にうつわの世間体的な意味で。
まあぬいの言っていることを信じるならば『ぬい』であるし、特に連れてきても問題はないだろうと思ってのことだ。
不思議なことに人に会うのではないかと若干びくびくと辿った家路は誰一人、それこそ猫一匹会うことはなかった。
とりあえず来客の礼儀として1階でコップに淹れてきた麦茶を勧め、平然と盆からとり手を付けているぬいにうつわは問いかけた。
「んく……そうですの、とりあえず滝行15時間をしてほしいんですのよ」
「嫌だ」
「なぜですのよ!?」
「むしろなんでとりあえずで滝行なんだよ!」
うりゅとまた赤い目が潤みだす。
あ、またくるぞとうつわが思ったのと同時に、その赤は暴音とともにはじけた。
蝉しぐれでさえ軽く凌駕する声量。その細く小さい身体のどこからでているのかさっぱわりわからないそれがうつわの部屋に響き渡る。というか部屋の外、屋外まで届いてるんじゃないかと遠い目になるうつわ。
「協力ううううううううううう!してくれるって言いましたのにいいいいいいいいいい!」
「いや、だから」
「やだやだやだ協力してええええええええええええ!」
脳に針を何十本か突き刺すように響く泣き声にうつわは頭を抱えた。近所であの家から「子どもの泣き声が」とか言われたらどうする。まだ妹が幼いからセーフか。
だから子どもは嫌いなんだ。暴君と言ってもいいような音量と声色に頭ががんがん痛くなってくる。また外でやられたらたまったもんじゃない。家に連れてきてよかった。
「もううるさいな!協力しないとは言ってないだろ!」
「ぐす……だって、滝行は嫌と」
「滝行はな」
協力しないとは言ってないと言った途端にぴたりとやむ泣き声。本当にわざとかこの野郎とこぶしを握るうつわ。いや、野郎ではないのだが。本当に一発殴りたくなった苛立ちを何とかこらえたうつわはぬいに問いかけた。
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