第14話 嵐の前に
ぼんやりと居間でテレビを見ていた。
ここ数ヶ月、日中はほとんど外出していたせいだろうか。テレビの前に座り、何の興味もなさそうな顔を向ける夫の姿、そんな、どの家庭でも見られるような、普通の光景は、妻にとって逆に心配なものに映ったらしい。その日は、やたらと体調を気にされ、風邪っぽいのではないかとあれこれ質問され、適当に答えていると、お昼ごはんにはお粥が出た。
気分が優れないのは確かだった。間もなく魔界で戦争が起きる。しかも相手は、世界こそ違えど同じ人間なのだという。私は城に居て、軍事費や兵士の配分等の事務処理をしていて欲しいとの事なので、直接戦場に行くことはないだろうが、戦争に関わることに違いはない。
「戦争……かァ……」
ぼんやりと見ていたテレビに映っていたのは、奇しくも、イラク戦争に関するニュースの特番だった。専門家数人が集まって、この戦争の必要性や優位性をしきりに話しているが、誰が見たって理由無き侵略戦争であることは明らかだろう。
聞けば、魔界へ攻めてくる人間達の大義名分も、魔族の存在自体が天意に背いており、そのせいで人間界に天災が起きるから、というものらしい。魔族を滅ぼせば、人間界に平和が訪れるという理屈だ。そのあまりにも荒唐無稽で根拠のない話に、思わず失笑しそうになったが、こちらの世界に帰ってみれば、やってる事は同じようなものだった。人間共は愚かだ。私は魔界に住まう魔族の立場からそう思った。
チーン
そんな音が隣の部屋から聞こえてくる。目を向けると、その音は開け放たれた襖の向こう、仏間の方から聞こえてきていた。いつものように、仏壇の前で妻が手を合わせている。それは、あの日から一日も欠かされていない光景だった。
仏壇に飾られた小さな写真から、今日も笑顔がこちらを覗いている。それは、あの日トラックに跳ねられてこの世を去った、幼き娘のものだ。
「クミちゃん、パパはどうすればいいのかな……」
私は、天井を仰ぐと目を瞑り、小さな声でひとりごちた。
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