第11話 決起の時

 大陸を統べ、人類に悠久の平和をもたらした偉大なるラバリス王国。その威光を知らぬ者は人ではないと言われる言葉どおり、ラバリスに歯向かおうとするのは、文明を知らない魔族だけである。そんな未開の地、魔界に文明の光をもたらす為、私は先王ボイド王によってこの世界へと召還された。


まだ幼く、物事の道理を知らなかった私に、この世界での生き方と、憎むべき魔族達との戦い方を教えてくれた偉大なる先王は、私が初陣に立つ前に流行り病によって命を落としてしまった。その跡を継いだアレドリス王子は、とんだ腑抜け者で、父の病死を聞くや否や、指揮権を使って軍隊を引き上げてしまったのだ。そのせいで、我々が得た魔界の領土の半分近くが、後に奪い返されてしまったと聞く。


それから十年間、私は幾度もアレドリス国王に、再び魔界への侵攻を始めるよう、勇者の立場から進言してきたのだが、口惜しいことに私の声は平和ボケした王には届かなかった。今は一見平和でも、いつ何時、魔族達が攻めてくるか分からない。それに奴らは、この世界の理からはずれた存在で、土や石から生まれるのだと聞く。魔力によって動く泥人形、人を食らう野蛮な生き物、そんな奴らを野放しにしておく理由が私には見つからなかった。しかし、その状況にも変化が出始めている。というのも、魔族達に粛清を求める民達の声が日に日に高まってきているのだ。


ここ数年間、大陸は異常とも言える数の災害に見舞われ、土地は荒れ、民達は苦しみ喘いでいる。その苦しみの声に対し、国王は備蓄を切り崩す等、場当たり的な対応でお茶を濁そうとしていた。その愚かな態度に、ある日ついに我らが大賢者ヴォルヴィク様が怒りの声を上げられたのだ。


「災害を産み落としているのは誰か、皆も知っているだろう!偉大なるラバリスの大地を滅ぼさんとする魔族達を一匹たりとて生かすな!」


国王演説会で突然声を上げた、大賢者様のあの勇ましいお姿、それに呼応し、熱狂する国民達の歓声は、未だに私の脳裏に焼きついて離れない。ついに時は満ちた。私は、私の義務を果たすため、天意に背き、大陸に災害をもたらす魔族達を皆殺しにしてやるのだ。


カチャリ


宝珠のはめられた聖剣は、キラリと黄金色に輝いた。それを封印の呪式が重ねがけされた鞘に入れ、私は立ち上がる。立ち上がると同時にガシャリと鎧が音を立てた。勇者のみに許された、ラバリスの紋章の入った赤いマントをなびかせ、私はテントをくぐり、外へと出る。


「勇者様!出発の準備は出来ております。」


駆け寄った部下にご苦労を声をかけ、そのまま愛馬の元へと向かう。


「マキバオ、よろしくね」


彼は、ここから北の山脈を抜け、忌々しい魔族達の地へと向かう数週間の間、世話になる大事な相棒だ。私が首をくすぐるように撫でると、嬉しそうな顔をして鳴いた。もはや名前の由来は忘れたが、孤独な私に先王様が下さった大事な親友である。


彼にまたがり、私は右手をかかげ、私の一挙手一同をじっと見ていた彼らに、一言声を上げた。出発の合図である。


するとウオオオオオオオと、呼応する声が波状に広がり、大地を覆わんばかりの数の軍人がいっせいに動き出す。夢にまで見た進軍の瞬間だ。


頭のてっぺんからつま先まで、血潮が踊り狂っているのが、自分でも分かった。

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