お悩み1:友達ができません。
『アリア・スカーレット』
お悩み1:友達ができません。
目が覚めて一時間も経っていないのに、異世界でお悩み相談室の相談員になるとはな。しかも女子限定の。俺に務まるかどうか。
だが、そんな風に不安に思っている暇はない。間もなく、アリア・スカーレットさんが相談をしにここにやってくるんだ。こっちが不安がっていては、彼女の相談に乗ることなんてできない。
「何だか勇ましい表情になったわね、裕真」
「やると決めたからには、俺なりにしっかりとやっていきたいですから」
「……素晴らしい心掛けだわ」
「ただ、相手は女の子なので、エリスさんやエレナさんの助けを借りる場面が出てくるかもしれませんが。その時はお願いします」
「もちろんです! 裕真さん!」
エレナさんが元気よく答えてくれる。それがとても心強い。男の俺じゃどうしても入り込めないところも出てくると思うし。
――コンコン。
そんなノック音が聞こえた。
『エリス様。アリア・スカーレット様をお連れしました』
「ありがとう。通して」
こういう振る舞いはさすが室長、という感じだ。落ち着いているというか、一つ一つの言葉に重みがあるというか。幼げな容姿とのギャップを感じた。
そして、扉が開くと制服のような服装の女の子が姿を現した。彼女のふんわりとした赤いセミロングの髪が目に入ってくる。こんな女子は日本にいない。
「アリア・スカーレット様ですね」
エレナさんがそう訊くと、アリアさんはぴくっ、と体を震わせて、
「は、はいっ!」
驚きのあまりか甲高い声で答える。
「では、こちらのソファーにおかけになってください。裕真さんも向かい側の素ファーに座ってください」
「そうですね」
アリアさんがソファーに座ったすぐ後に、俺は彼女と向かい合うようにして座る。
午後五時ちょっと前、ってことは学校帰りってことかな。友達ができないってことは学校では一人で過ごしていることになるわけか。そんな日々を彼女は脱したいと考えている。
どうやって彼女の心に近づいていき、彼女の悩みを解決していくか。色々と方法はあるだろうけど、慎重に考えていかないと。
だが、まずは最初の挨拶だ。
「初めまして。風戸裕真です」
「ア、アリア・スカーレットですっ!」
何か、さっきのエレナさんのときよりも緊張しているような気が。視線をちらつかせて、俺の方にあまり目を向けてくれないし。やはり、それは男女の違いなのか。
それでも、挨拶ができるんだからまずは大丈夫かな。
「アリアさんのご相談は……お友達を作れるようになりたい、ということでしたね」
「は、はい……」
「……どんなときにお友達が欲しいなって思いましたか? お友達を作れるようになりたい、と聞いているので、きっとアリアさんがそう思うきっかけがあったと思うんです。それを俺に教えてくれますか? 俺はそれが知りたいんです」
孤独がいいから一人でいるわけではない。一人でいても、心の中では誰かと一緒に過ごしたい気持ちがあるんだ。けれど、そう思うきっかけによって、友達を作っていく意味合いががらりと変わってくる。
「え、えっと……」
アリアさんは……緊張してしまっているからなのか、なかなか口を開いてくれないな。俺と目を合わせてくれないのがちょっと寂しい。
「裕真がじっとアリアさんのことを見つめているからじゃないの?」
「そ、そうですかね。ただ、誰かと会話をするときには目を見て話すように、と小さい頃から教えられていたので……」
「裕真さんに見つめられて照れてしまっているのかもしれません。裕真さん、その……とてもかっこいいですから」
そう言うエレナさんが照れているように見えるのは気のせいだろうか。
ただ、アリアさんの顔を見てみると、確かに頬が赤くなっている。異性の俺が見つめてしまっては、アリアさんの感情を下手に乱してしまうかもしれない。普段なら言えることも言えなくなってしまうかもしれない。
「……エリスさんの言う通りかもしれませんね。俺はアリアさんのことをじっと見つめすぎていました」
アリアさんのような女の子には、いきなり本題に入ってしまうのがまずかったんだ。俺が同じ立場だったらなかなか言い出せないかも。
でも、アリアさんは悩みを解決したくて、不安な気持ちを少しでも無くしたくてここに来たんだ。そんな彼女に何もできずに終わってしまうことだけは絶対に避けないと。
いきなり本題に突入してしまうのが駄目なら――。
「……アリアさん」
「は、はいっ!」
「……俺、こう見えても甘い物が大好きなんです」
「……えっ?」
突然、何を言っているんだろう、と言わんばかりのきょとんとした表情をアリアさんは見せる。
「アリアさんは甘い物はお好きですか?」
「……はい、大好きです」
今度は即答だったな。異世界女子はスイーツがお好き、か。
そして、俺は初めてアリアさんの笑顔を見た。それはとても穏やかで優しそうな笑み。それを見てこの悩みはきっと解決すると思った。狙い通りだ。
「そうとなれば、みんなで甘い物を食べましょう。俺の故郷である日本という国で人気のスイーツがありますので」
「それには紅茶が合いますか?」
「ええ、エレナさん。是非、お願いします。ちょっと席を外しますね」
俺はスイーツを用意するために自分の部屋へと戻る。
甘いものを食べて、ちょっとでも幸せな気持ちになってから……アリアさんのお悩みを解決していきましょうか。さっきのような笑顔を見せることができるんだから、あと一歩だ。
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