『二人の決意』

 ――あなたの決意を聞かせて。

 母親からの問いかけに、セーラさんはどのような答えを示すのか。

 セーラさんは緊張した面持ちで、母親のルーシャさんの顔を見つめ、


「私は隣に立っている、エイミー・コレットさんとずっと一緒にいたいと考えています。何があっても、彼女と一緒に幸せになりたいです」


 改めて、セーラさんは自分の将来についてとその決意を確かに伝えた。

「エイミーちゃんも同じですか?」

「はい。セーラと一緒に恋人として付き合っていきたいと。もちろん、ずっと一緒にいたいと考えています」

「……そうなの」

 セーラさんとエイミーさんの決意が同じであることを確認したルーシャさん。そんな二人に対して、母親としてどう答えるのだろうか。


「……エイミーちゃん。セーラのことを宜しくお願いします」


 ルーシャさんはそう言うと、ゆっくりと頭を下げた。

「では、お母様……私とエイミーちゃんの交際を許してくれるのですか?」

「もちろんです。但し、エイミーちゃんと幸せになること。そして、あなたの持っている能力を必要とされるときはしっかりと行使すること。そのためにも、能力が衰えないように鍛錬を重ねること。それが条件です」

『ありがとうございます!』

 二人の声が重なる。

 これで、一件落着かな。今後何かあるとすれば……例えば二人が喧嘩をしてしまったときとか。

「風戸さん。娘とエイミーちゃんのご相談に乗って頂き、ありがとうございました」

「俺はただ、相談員としてできることをしただけです。それに、今日は二人のサポートをするつもりここに来ましたけど、俺の方がルーシャさんに助けられた感じでした」

「……あの方の本音を聞き出すチャンスだと思いまして。利用させていただきました。普段、セーラが話してくれることと、フラーウム家へお悩み相談室に行ったこと。そこから、きっとエイミーちゃん絡みだと思っていましたから」

 さすが、母親は娘の悩みが何なのか……全てを聞かずとも分かっていたわけか。そして、セーラさんの悩みはメイナード家に大きく関わることだから、デビッドさんの本音をはっきりさせる絶好の機会だと思ったと。

「本音を聞き出すとして、デビッドさんをメイナード家から追放させるつもりだったんですか?」

「内容と態度次第でした。でも、私の想像通りの本音と、想像以上に悪い態度を取っていましたから、ふふっ、追放しちゃいました」

「な、なるほど」

 追放しちゃいました、と優しげな笑顔で言われるととても恐いんだけれど。でも、さっきのように権力を乱用しようとした態度を見せられては、メイナード家から追放した方がメイナード家にとっては良かったんだろうな。

「母親であるルーシャさんがセーラさんの考えに賛同してくださっていたから、このような結果になれたんだと思います。セーラさんとエイミーさんの相談員としてお礼を言わせてください。本当にありがとうございます」

「……いえいえ。むしろ、私の方から風戸さんにお礼を言いたいくらいです。異世界から来たあなただからこそ、あの方に気圧されることなく堂々と渡り合えた。そして、能力を使ってみて欲しい、というあの言葉があったから……私は本音をあの方に言う勇気が出たのですよ。メイナード家はあなたに救われました。本当に……ありがとうございました」

「そう言ってくださると、こちらも嬉しいです」

 一つの財閥を救ったという感覚は全くなかった。あくまでも、セーラさんとエイミーさんの描く未来を守るためにここに立っていたから。

 まさか、エリスさんはこうなると予想して俺をメイナード家の屋敷に行くように命令したのかな。エリスさんのことだ、それもあり得そう。

「風戸さん、本当にありがとうございました。セーラと幸せになります」

「それが風戸さんにできるお礼だよね。本当にありがとうございました」

「……いえいえ。お二人が歩みたい未来への第一歩を踏み出すことができて、俺はとても嬉しいですよ」

 こうして、面と向かって笑顔でお礼を言われると、とても嬉しいな。日本にいたときはこんな気持ちになったこと、全然なかったな。

「また、何か悩んだり、困ったりしたことがあれば何時でも相談しにきてください。その時は甘い物を用意してお待ちしています」

「昨日、食べたプリン……というものは美味しかったです」

「えっ、あたしの時はなかったよ!」

「エイミーさんの時は俺が女装して、告白の練習をしましたからね……」

 食べる暇がなかったな、あの時は。

「休日にでも遊びに来ていただければと思います。俺の家にあるんで」

「じゃあ、その時はセーラと一緒に行きますね!」

「分かりました。その際はご一報ください」

 セーラさんとエイミーさんの笑みを見ることができたし、これで、本当に一件落着かな。エイミーさんから振られたと連絡があったときはこれからどうするか悩んだけれど、それでもこのような結果になって良かった。

「それでは、私はこれで失礼します。上司に報告しなければいけないので」

 セーラさんやエイミーさんと次会うときは、どうか今よりももっと幸せでありますように。そう思いながら、俺はメイナード家を後にしたのであった。

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