エピローグ
「ただいま帰りました」
相談室に戻り、エリスさんとエレナさんの顔を見ると我が家に帰ってきた感じがして、ほっとする。
「おかえり、裕真。どうだった?」
「無事にセーラさんとエイミーさんがお付き合いできるようになりました」
「そう、良かったわね。ご苦労様」
「お疲れ様でした! 裕真さん!」
お二人からお疲れ様と言われて、再び今回のことについてひとまず終わったんだなと実感する。
今回は色々あったな。エイミーさんから告白の失敗の報告を受けて、その直後にはエイミーさんが告白した相手であるセーラさんが相談者としてやってきて。予想外のことが重なったけれど、セーラさんとエイミーさんが互いに想い合う気持ちは変わらなかったから、付き合えるようになったんだと思う。
「しかし、まさか……メイナード家の当主を財閥から追放することになるとは思いませんでしたよ」
「あら、そんなことになったの」
「エリスさんの予想通り、セーラさんのお父様のデビッドさんがメイナード家の権力を利用して、フラーウム家がどうなってもいいのか、と脅迫してきました」
「……やっぱりね」
「もしかして、エリスさんは……こうなることを予想して、俺をメイナード家のお屋敷に行くように言ったのですか?」
普段は我が儘で子供っぽいけれど、これでもお悩み相談室の室長でフラーウム家の令嬢だ。賢いお方であることは間違いない。メイナード家が危険であることを、事前に察知していたんじゃないだろうか。
「……現当主のデビッド・メイナードは権力目当てにルーシャ・メイナードと結婚したんじゃないか、っていう噂は昔からあったわ。現に高圧的な言動・態度が目立っていたから」
「ルーシャさんは以前からそれに感付いていたみたいですよ。場合によっては追放させるつもりとのことでした」
「本家の血はルーシャさんが引いているからね。能力によって信頼が培われてきたわけだから、いざとなればルーシャさんの方が本当の権力はあったはず。ただ、ルーシャさんは確かめたかったんじゃないかしら、夫のことを」
「……その通りです。そして、ルーシャさんも本音を言いたかったようです」
「そう。まあ、これで一つ平和を脅かす要素を排除できたわけか。お手柄よ、裕真。ボーナスはいずれ、あなたに支払わせていただくわ」
「ありがとうございます」
まさか、ここまで大事になるとは思わなかったからなぁ。それに、デビッドさんのことはルーシャさんが一人で解決した感じでもあったし。
「……あなたを異世界から連れてきて正解だわ。あたしたちの世界に存在する関係や柵とかに囚われずに、あなたは動くから」
「確かにデビッドさんにも対等に話してしまってましたね」
「それでいいのよ、あなたは。責任はフラーウム家が取るし」
「そう言ってくださると、心強いです。俺も気をつけますけど」
あの時はもう……自分勝手に物事を言っていたデビッドさんへの怒りで、刺々しいことも言っていた気がする。
ただ、今回……俺はセーラさんとエイミーさんだけでなく、結果としてメイナード家を変えることをした。ルーシャさんはメイナード家を「救った」と仰っていたけれど。
「……エリスさん」
「なあに?」
「……これからも頑張っていきます」
俺がそう言うと、エリスさんはにっこりと笑って、
「うん。期待しているわ」
と、嬉しそうに言っていた。
本当はあることを訊こうとしていたんだ。
『エリスさんは俺に……異世界から来た人間だからこそできる、大きなことをさせようとしてませんか』
一度、マスカレット国女子の救世主と言われたことがある以上、実は国家単位の案件があるんじゃないのかと。
ただ、この世界に来て日も経っていない今の段階で、それを訊く勇気はなかった。今の俺にはまだ、触れてはいけない領域のような気がしたから。
*****
風戸裕真。
エリス・フラーウムが異世界から連れてきた男の子。
まさか、暴君とも言われていたあのデビッド・メイナードを、メイナード財閥から追放させるきっかけを作るなんて。まあ、ルーシャ・メイナードも彼の本性を疑っていたようですし、彼女は本家の能力者だったから、デビッドが追放されるのも時間の問題でもあったんですけれど。それでも、風戸裕真がきっかけを作ったことに変わりはない、か。
ただ、デビッド・メイナードのような国を乱すかもしれない危険人物はまだいる。
風戸裕真には相談員として女の子の悩みを解決しながら、マスカレット国の未来のために働いてもらいましょう。彼はなかなか使えそうですから。
「近いうちに……会いたいですわね」
個人的に興味もありますので。かっこよくて、優しくて、逞しい方のようですし。ふふっ、会えるときが楽しみですわ。
お悩み2:女の子を好きになってしまいました。 おわり
お悩み3に続く。
シュガーワード 桜庭かなめ @SakurabaKaname
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