『打開策を探せ』
プリンも食べ終わり、セーラさんに元気な表情が見えるようになった。
「さて、そろそろこれからどうしていくか考えていきましょうか」
「……はい、お願いします」
セーラさんは、エイミーさんと恋人として一緒に過ごしたいと考えている。その未来を歩んでいくためには――。
「二つの課題がありますね」
「……二つ?」
「ええ。一つ目はエイミーさんと仲直りして、自分も好きである想いを伝えること。二つ目はセーラさんが女の子と付き合うことを、ご家族に理解を得ることです」
「確かに、その二つが今回の解決すべきことね」
そう、エイミーさんとの仲を改善すること。そして、女性と付き合う……つまり、本家の血をセーラさんで絶えてしまうことをメイナード家の方々承諾していただくことが、セーラさんとエイミーさんのお悩みを解決する鍵となる。
「どうやってその二つを解決すればいいのでしょう?」
「エイミーさんと仲直りをし、二人で一緒にメイナード家に女の子同士で付き合うことを理解するパターン。先にセーラさんがメイナード家に女性と付き合ってもいいと許しを得てから、エイミーさんに告白をする。どちらの流れでもいけそうですが、どちらもセーラさんの頑張りが必要になりますね」
「……そうですよね。私の本心を誰かに伝えなければいけませんから……」
「ええ、その勇気がとても大切になります」
エイミーさんに告白する勇気。そして、家族に女性と付き合いたいという勇気。一歩を踏み出すために大事なものだ。
「エイミーちゃんの方はしっかり話せば仲直りできるかもしれません。ただ、メイナード家の方は……かなり難しいと思います。本家の血は引き継がれる。過去にも姉妹しか子どもが生まれない代もありましたが、その際は結婚する男性をメイナード家の人間になるという方法をとっていました」
「つまり、それを踏襲するのであれば、セーラさんは男性と結婚し、相手の男性が婿としてメイナード家の一員になるというわけですね」
「ええ……」
昔からの伝統、決まりとなると……それを崩します、ってなるとメイナード家の皆さんは簡単に頷いてくれないだろうなぁ。
「エイミーさんと付き合ってもいい状況になればいいのにね」
エリスさんの漏らしたその言葉は、とても重要だ。
俺達は現在の状況で何とかしようとしているから、セーラさんとエイミーさんが恋人として一緒に過ごしていくことが難しいと感じている。それなら、女の子同士で付き合っても可能な状況は何なのかを考えていくのも一つの手だ
「……その状況とは何でしょうか、エリスさん」
「えっ、えっとね……ごめん、思いつきで言ってみただけだから、状況がどんなものかって訊かれるとなかなか……」
「しかし、その考え方は大切だと思います」
「そ、そうね……例えば、エイミーさんが男だったとか」
エリスさんの言葉に、俺達は何も言葉が出ない。
「……もしそれが本当なら、一昨日、エイミーさんが相談室に来たのは何だったんですか。彼女は同性である女性に恋をしてしまったから悩んでいたんです」
「うううっ、思いつきで言ったんだからそんなに真剣に反論しなくていいじゃない!」
「俺はただ事実を言っただけなんですが……」
エリスさんは涙目。そんなに俺はエリスさんを叩きのめしてしまった感じに言ってしまったのか。
「じゃあ、セーラさんに子どもができちゃうとか! それなら、本家の血が引き継がれるから、エイミーさんと付き合っても問題ないわ!」
「……理論的にはそうですけど、倫理的に問題がありそうな……」
子どもができるってことは、セーラさんは男性と子どもを作らなければいけない。それではセーラさんの心に負担がかかるだけだ。
「こ、子ども!?」
あううっ、とセーラさんは悶えてしまう。年頃の女の子に対してそんなことを言うから――。
「で、でも……か、風戸さんとだったらいいかも。お優しいですし……」
「いやいや、俺は応じませんよ」
十代半ばの女の子にそんなことはできないし、そもそもする気だって全くない。今のセーラさんの言葉に驚きすぎて、一瞬心臓が止まったよ。本気で考えていたようだし。
「これでセーラさんと子どもを作ろうとしたら、即刻クビにして、物理的に首が飛んでいたところだったわね」
「俺はそんなゲスな人間ではありませんよ」
都合のいい理由だからってそんなことをしようとは思わない。そもそも、子どもの方に話の流れにしたのはエリスさんじゃないか。
「やはり、現状でどうしていくか考えた方がいいですね」
この状況を変えるには突拍子もないことをしなければいけないから。
「そうした方が良さそうね。……セーラさん」
「は、はいっ!」
「エイミーさんと二人でメイナード家の人々に交渉するか。それとも、女の子同士で付き合ってもいい状況を作って、エイミーさんに告白するか。どっちがいい? この現状であなたの歩みたい未来を勝ち取るためには、この二つだと思うんだけれど」
エリスさんの言う通りかな。つまり、エイミーさんとメイナード家、どちらから自分の気持ちを伝えて納得してもらうか、だ。その判断をセーラさんに仰ぐわけか。
正直、俺はどちらが良いとか悪いとかは判断できない。
「……私は……」
セーラさんはどんな答えを言うのだろうか。
「私はまず、エイミーちゃんに告白します。そして、二人で一緒にいたい気持ちを、二人で一緒に家族へ伝えたいです」
それが、セーラさんの下した答えだった。
「エイミーちゃんへ気持ちを伝えるのは私一人でできると思います。ただ、エイミーちゃんと二人でお父様やお母様をはじめとする皆様に理解を得られるかどうか……」
「……裕真。あなたが一緒にメイナード家に向かいなさい」
「相談員の俺が踏み込んでいい領域なのでしょうか」
第三者で、ましてや異世界の人間である俺なんかが。
「……あなたはセーラさんだけではなく、エイミーさんの相談員でもある。相談員っていうのは、困っている人の悩みを解決に導くのが仕事なの。二人を支えてあげなさい」
「……分かりました」
セーラさんとエイミーさんに笑顔になって欲しい気持ちは俺も一緒だ。俺にできることを一生懸命やっていこう。
そして、告白の結果を連絡することを約束し、セーラさんは相談室を後にした。
さて、どうなるか。エイミーさんもセーラさんのことが好きだから、彼女と仲直りできるとは思うけれど、問題はメイナード家に理解を得られるかどうか。俺が出る幕がありそうな気がしてならなかったのであった。
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