『歩みたい未来』

 今回の相談者であるセーラ・メイナードさん。

 彼女の悩みは女の子への恋心。その意中の女の子というのが一昨日、この相談室へ相談しに来たエイミー・コレットさんだったのだ。

「そうだったんですか。セーラさんの意中の女の子がエイミーさん……」

「ど、どうしてエイミーちゃんの名前を知っているんですか?」

「……彼女もここへ相談しに来たからです。彼女が抱える悩みはあなたへの恋心でした」

「そうだったんですか……」

「女の子に恋をしてしまって、想いを伝えたらそれまで築いてきたあなたとの関係が崩れてしまうんじゃないかと危惧していました。それでも、想いを隠さずに伝えることが大事なんだと決意して、俺達と一緒に告白の練習をしていたんです」

「……そこまでして、エイミーちゃん……私のことを……」

 セーラさんは目を潤ませ、俯いた。エイミーさんが抱いた自分への想いの深さ、温かさを知ったからだろう。

 やむを得ない事情があるにしろ、エイミーさんの恋心が絶対に実らないものであったと分かると何とも言えない気持ちになるな。

「……私はもう、エイミーちゃんと絶交した方がいいのでしょうか。こんなにも酷いことをしてしまったのですから……」

「そんなことないと思いますよ。むしろ、セーラさんは自分が振ってしまったことで生じてしまったエイミーさんとの溝を埋めたい。そうするためにどうすればいいのか。それを相談するために、ここへやってきたんだと思っています」

 友達としてなのか。恋人としてなのか。セーラさんがどちらの形を臨んでいるかは分からないけれど、何にせよセーラさんとエイミーさんが一緒に楽しい時間を送っていくという未来を歩んで欲しい。

「俺達はセーラさんが前へ進んでいけるように、全力でサポートをしていきます。そのためには、セーラさんがエイミーさんとどうしていきたいのかを、俺達に教えて欲しいです」

「……でも、私の想いのままにしてしまったら、どれだけ多くの人に……多大な迷惑をかけてしまうか……」

「……あなたに流れる血。それを次の世代に引き継ぐ役目が、あなたにしかできないからですか」

「そうです。メイナード家の能力は長い歴史の中で、多くの人々を救ってきたんです。特に本家の能力は。この先の未来、何が起こるか分からない。もしかしたら、本家の力でないと駄目なことが訪れてしまうかもしれません。私の……人一人へ対する想いを実らせたことで、数多の人の命を救えなかったことになったら、私は……」

 セーラさんの言っていることは正しいと思う。この先の未来、マスカレット国に何が起こるか分からないし、メイナード本家の能力でないと人々を救えないことだって起こるかもしれない。

「……エイミーさんの言う通りだ。あなたはとても……優しい女の子なんですね」

「えっ……」

「自分よりも周りのことを考えてしまう。きっと、あなたはエイミーさんをメイナードの本家の血を絶やした張本人として苦しめたくないから、エイミーさんを振った。今日、エイミーさんから相談室に電話がありまして、その時の彼女の様子は……酷く落ち込んでいるようでした」

「そうなんですか……」

「その様子から推測すると、あなたはただ振っただけではなく、今後、友達としても関わらないで欲しい、みたいなことをエイミーさんに言ってしまったのではありませんか?」

「……!」

 直球で言ってしまった所為か、俺が言ったことが真実だったためか、セーラさんの眼からは涙がボロボロと溢れる。

「コラッ、裕真! あなた、セーラさんを泣かすようなことを――」

「いいんです、エリスさん。風戸さんの言ったことは正しいのですから」

「セーラさん……」

「……私はエイミーちゃんにとても酷いことを言って、エイミーちゃんを傷つけてしまいました。でも、エイミーちゃんとまた会いたい。笑いたい。恋人として、ずっと一緒にいたい……」

 今の言葉がセーラさんの本音であることはすぐに分かった。でも、

「それが、セーラさんの歩みたい未来ですね」

 確認の意味でセーラさんに問いかける。エイミーさんと「恋人として」一緒にいたいということを。


「私はエイミーちゃんと恋人として、ずっと一緒にいたいです。だから、皆さんの力を貸してください」


 セーラさんは涙を流しながらも、俺達にそう訴えた。

「もちろんです。どうしていくか一緒に考えていきましょう。その前に、ちょっと紅茶も飲んで落ち着きましょうか」

「……はい」

「そうだ。プリンがあるんですよ。とっても甘い食べ物なんですけど。せっかくなので一緒に食べましょう。エリスさん、それでもいいですか?」

「もちろんよ。はぁ、やっと食べるときが来たのね。楽しみだわ」

「エリスさん、ずっと食べたがっていましたもんね……」

 エリスさんは何度かあったプリンを食べる機会を逃していたからなぁ。彼女にプリンを食べさせたい気持ちもあって休憩を挟もうと決めた。

「それじゃ、俺の家からプリンを持ってきますね」

 冷えて美味しくなっているプリン。マスカレット国女子の皆さんのお口に合えばいいんだけれど。

 ただ、それは杞憂でしかなかった。

 エリスさん、エレナさん、セーラさんは俺が作ったプリンを美味しそうに食べてくれた。そのおかげか、セーラさんの顔には笑みが見え始める。エイミーさんの前でもこうした笑顔ができるように考えていかないといけないな。

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