『本音』
エイミーちゃんといつ、会えるのかな。
明日でも良かったかもしれないけれど、エイミーちゃんは学校に来ないかもしれない。私のいる場所にはもう、二度と現れないかもしれない。
「会いに行こう……」
エイミーちゃんが来ないかもしれないなら、私がエイミーちゃんの所に行くしかない。一刻も早く、エイミーちゃんに会いたい。
私はエイミーちゃんの家へと向かう。
「あら、セーラちゃん」
ベルを鳴らしたら、エイミーちゃんのお母さんが家から出てきた。笑顔で私を迎えてくれるということは、エイミーちゃん……私のことをお母さんに言っていないのかな。
「あの、エイミーちゃんに会いにきたのですが……」
「そうなの! エイミーが喜ぶと思うわ、さあ入って」
「ありがとうございます」
やっぱり、お母さんには告白のことを話していないんだ。ここまで好意的に私を招いてくれるわけがない。
そして、私はエイミーちゃんの家にお邪魔する。
「昨日の夜から具合が悪くて寝込んでいるのよ」
私に振られた直後から、か。
「そうですか。少しは良くなりましたか?」
「ちょっとずつね。でも、まだ元気がなくて」
「……そう、なんですね」
あんな言い方をしてエイミーちゃんを振ったら、一日ぐらいで元気になれるはずがない。本当に酷いことをしてしまったんだな、私。
「……私は下にいるから、何かあったら呼んでね」
「はい、分かりました」
私は一人でエイミーちゃんの部屋の前まで行く。
――コンコン。
扉をノックすると、
『なあに……』
と、気怠そうな感じのエイミーちゃんの声が部屋の中から聞こえた。エイミーちゃんの声が聞けると、やっぱり安心する。
エイミーちゃんの名前を口にしたかったけれど、声を出してしまったら扉を開けない気がしたので無言のまま彼女の部屋の中に入る。
「エイミーちゃん」
「……セ、セーラ!」
薄暗かった部屋の中には桃色の寝間着姿のエイミーちゃんがいた。
「どうして、あなたがここに……」
「……私の本当の気持ちをエイミーちゃんに伝えたいから」
「本当の気持ち、ってそれは女の子が好きなあたしとは友達としても付き合えないってことじゃないの?」
「違うの」
エイミーちゃんは頑張って本音を私に伝えてくれたんだ。私も本当の気持ちをエイミーちゃんに伝えないと。
「私、エイミーちゃんのことが好き。エイミーちゃんとずっと一緒にいたい!」
昨日言えなかった気持ちを、今、エイミーちゃんに向けて。昨日の今日で好きだと言った私のことをエイミーちゃんはどう思っているんだろう。
「何よ……」
エイミーちゃんはそう漏らすと、ガッ、と私の両肩を強く掴んで、
「昨日と言っていることが違うじゃない! 好きならどうして、昨日……あたしが告白した時にはあんな風に振ったの?」
私を見るエイミーちゃんの眼は鋭く、潤んでいた。
エイミーちゃんが今言ったような気持ちになるのは当然、だよね。色々と複雑な心境な中で、昨日と真逆のことを言われたら混乱してしまうと思う。
エイミーちゃんが分かってくれるように、ちゃんと説明しなきゃ。
「……私、メイナード家の血を次の代へと引き継がなければいけないの。兄弟はいないから、その役目は私しかできない。だから、女の子と付き合ってはいけなかった。だから、昨日……エイミーちゃんからの告白を断ってしまったの」
「それなら、どうして……今、ここであたしと一緒にいたいなんて……」
「……これは私の我が儘だよ。代々受け継がれてきたものを絶やしてしまっても、私は私の好きなエイミーちゃんと一緒にいたいって思ったの」
「……そう思ってくれるのは嬉しいけれど、あたしは……セーラが苦しませたくないよ。あたしの所為で大切なものを絶やすことになるなんて。セーラのことを考えたら、あたし……セーラとは付き合えないよ」
エイミーちゃんは寂しそうに、私から視線を逸らしながら笑った。
「……私、知ってるよ。フラーウム家のお悩み相談室に行ったこと」
すると、エイミーちゃんは目を見開き、私のことを見て、
「ど、どうして知ってるの!?」
驚いた様子で私にそう言った。
「私も行ったからだよ。エイミーちゃんとずっと一緒にいたいから。エイミーちゃんも同じことで相談しに行ってたことも知ってる」
「セーラ……」
「……私が一番辛いことは、エイミーちゃんと一緒にいられないことだよ。笑顔が見ることができないことだよ。それは、メイナード家から非難されることよりもよっぽど辛いことなんだよ。私はエイミーちゃんを守っていく。その覚悟はできてるよ。エイミーちゃん、私と付き合ってください」
そう。エイミーちゃんと一緒にいられないことが一番辛いから、フラーウム家のお悩み相談室に行った。そうじゃなかったら、相談室に行ってないし、今、ここに立っていない。
すると、エイミーちゃんの眼からは涙が流れる。
「……あたしだって同じだよ。セーラと一緒にいたい。セーラと離れるのが一番辛いよ」
エイミーちゃんは私のことを抱きしめてくる。そして、泣き始める。その泣き声が痛く、切なく私の心に響き渡った。
「エイミーちゃんと同じ気持ちで良かった。ずっと一緒だよ、エイミーちゃん」
エイミーちゃんの頭を優しく撫でる。
「……あたしの家は大丈夫だけど、セーラの家は大丈夫なの?」
「一緒に説明しよう。あと、風戸さんがついてくれるから、大丈夫だよ」
優しくて、逞しいあの方が側にいるなら、きっと大丈夫。異世界から来た風戸さんなら立場などを気にせずにお父様やお母様に話せるはず。
「風戸さんがいるなら、心強いわね」
「……じゃあ、明日の放課後に私のお屋敷へ一緒に行こう。お父様やお母様に私達のことを……許してもらおうよ」
「うん……」
私達の愛情を確かめ合うように、エイミーちゃんにそっと口づけをする。突然だったからか、エイミーちゃんは驚いていたけれど、嬉しそうに笑ってくれた。
そして、私は風戸さんへ、明日の午後にメイナード家のお屋敷に行って頂くように連絡する。私とエイミーちゃんが仲直りをしたと伝えたときの風戸さんや、相談室の皆さんはとても喜んでいたのであった。
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