第21話浜
ざざーん!
あの頃と変わらず海の波は元気だ。
俺は、真田観月とタイムカプセルを埋めたあの砂浜に来ていた。
約束は破ってしまうけれど、1人でタイムカプセルを掘りに来た。
そもそも俺は5年じゃ母親の呪縛から抜け出すことはできなかった。
社会人1年目。一年遅れでようやくここに来れた。
事務製品を売る小さな都会の会社で働いていて、今日は少し里帰りしてきたのだ。
小さな緑のスコップを使い、松の木の下の土を掘り返す。
ざく、ざくっというスコップの感触もあの頃を思い出すようで懐かしい。
「…あった」
真田が持ってきたカンケースを取り出す。土で汚れていて年月を感じさせる。
蓋をあけると、そこに入っていた紙の数が異様に多い。2枚が白でそれ以外はピンクだ。
…おかしい。真田と俺で2枚だったはずなのに、6枚も多く折りたたんだ紙が入っている。
もしかして、真田が入れたのかもしれない。
ふとそう思った。あの真田のことだ。何らかのアクションを起こすことは想像に難くない。
まずは白い紙を開く。
「これからも仲良くしたい 真田観月」
「真田に幸せになってほしい 水谷ケイ」
これからも仲良くしたい、か。ごめん真田それ、遅くなりすぎたな。
ピンクの紙を開くのは白い紙より覚悟が必要だった。
「1年目。
今日で、タイムカプセルを埋めて1年目だね。私達はあの時から関わりがなくなってしまったから、これを1年ごとに書くことにしました。
私は水谷君のように大学受験はしないことにしました。先生たちにはかなり止められたけど、正直お金がないんだ…。母の貯金も足りなくなってきているので、働くことにしました。地元にそのままいるから、もしかしたら職場で会えるかも。」
こんな風に手紙は始まっていた。
多分、紙が6枚なのは、きっと今までの6年の事を綴ってあるのだろう。
俺は砂浜にそのまま座り込んで、その手紙をずっと読んでいた。
繰り返し、繰り返し。
読み終わった後は、妙に切ないようなやるせないような気がして、砂浜から思い切り立ち上がった。
なあ真田、幸せですか?
俺は今、すこし泣きそうだ。俺はあきらめが悪く、まだお前のことを好きだったのだから。
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