第18話砂
「よっしゃ!書けた!」
書き終わった瞬間、ぱっと空に両手を突き上げる。
そんな真田のような喜び方をする人、マンガとか以外で初めて見たような気がする。
俺は、真田のように時間をかけて書いていないからとっくに書き終わっている。
「じゃあ、松の木の方に行く?」
「そうだね、水谷君!早く埋めよう!」
青空と真田の笑顔という組み合わせはとても似合っていた。
どちらも人を笑顔にさせる魔力を持っている。
吹く風にそっと身を任せながら、少し遠い松の木の方を目指す。手には真田が持ってきたスコップと、紙を入れる少し大き目のカンケース。
松の木は、ここよりも先ほどいたコンビニの方が少し距離が近いくらいで、本当は手間がかかるのだけれど、何でだろう、それも苦じゃない。
「水谷君は、何を書いたのかな?」
「えっと、俺は…って、それじゃタイムカプセルの意味ないよね」
「へへー、バレたか」
「真田は?何書いたの?」
「気になる?」
「うん」
真田は、そっと彼女のピンク色の唇に人差し指をふれた。
「教えないよ」
松の木は一本だけではなく、10本くらいの林になっていた。
秋になると松ぼっくりが落ちてくるのかな。
その時は真田ははしゃいで一緒に拾おうと俺を誘うのかな。
「ねえねえ、あの一番大きな木の根元に埋めよう!」
「ああ。その方が分かりやすいしね」
走り始めた真田に、少し苦笑する。
ふと思った。
真田はこんな俺と一緒にいていいのか。
もちろん殺人者の娘というレッテルは一生貼られたままだろうけれど、彼女はそれを吹き飛ばしてしまうくらいの魅力がある。
そんな彼女にはきっとふつうにしていれば、また仲良くなりたいというクラスメイトも居たのかもしれないのに。
俺は邪魔になっているのかもしれない。
いや、きっと邪魔だ。
真田の可能性を壊してしまっている。
そう思った。
正直、俺は彼女とともだちをやめたくないのだけれど、致し方ない。
このタイムカプセルを埋めたら、距離を置こう。
それが真田のためだ。
それがともだちとしてできる俺の行動だ。
少し走っている彼女の姿がぼやけている。
あれ?目にゴミでも入ったのかな。
目をこすりながらも、俺は真田とともに、松の木の根元の砂を掘り始めた。
砂は固くて、掘りにくかった。
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