第17話書
「はい、これ」
手渡されたのは、半紙くらいの白い紙。そして、青いペン。
真田自身も、それと同じように、紙とピンクのペンを持っている。
「シートの上にしゃがみ込むようにして書くしか、書けないね。埋めるのは、人がいない松の林の方でいいよね」
独り言なのか、もうすでに紙に何かを書き始めている真田。
俺も、それについて何も言わず、字を書き始めようとする
…のだが。
「真田、これいつ掘り返すの?また二人で集まるの?」
何年後の自分に宛てて書くのかというのも、文章の内容に結構かかわってくるはずだ。
もし30年後とかだったら想像もつかないけれど。
「うーんそうだね」
真田は考えていなかったのか、腕を組み、悩ましげに目をつぶる。
…タイムカプセル埋めておく時間決めないでどうすんだよ。
つっこみたくなる衝動にかられる。彼女は、天然なところがよくある。
でも、なぜだか、真田がそうしている姿は絵になっていて、ずっと見ていたい気分にもなった。
さらさらの長い髪が風に揺れて、その中で瞑想しているかのようでとても綺麗だ。
太陽の光もちょうど良い具合に差し込んでいる。
ほかに海に来ている人は騒がしいのに、なぜか真田のまわりにだけ違う時が流れているかのようだった。
結構長い時間、そんな真田を見ていたつもりだったけれど、実際はほんの数秒だったと思う。
真田は決意したように目を見開いた。
反射的に見ていたことがばれないように目をそらした。
それなのに、本人はまったく気づいていないようで安心した。
「5年後にしよう!」
「意外と早いね」
「私達の5年ってほかのみんなより絶対経つの遅く感じられるよ?状況も一変してると思うよ?」
確かにそれもそうだ。俺も真田も、その時、22歳。
大学生で、ある意味自由の身になるだろう、今よりは。
大学生の自分。
…ふつうにどこかの大学行って、ふつうに一人暮らししていそうだ。
でも、そんな中で、またたまには彼女と会っているのだろうか。
会っていそうな予感がする。彼女は5年経っても、それ以上どんなに時が経っても連絡してきそうだから。
でもそんな日々も悪くない。
こういう風に、強引に引っ張ってくるような人間でなきゃ、俺には合わない。
5年後、俺はどうなっていたいか。どうなることを望んでいるか。
それを確認して、力を込めるように、内容を紙に書いていった。
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