第16話時
コンビニで買ったおにぎり、それとあずきバーは、真田が持って来ていたシートを砂浜にしいて食べた。
海の方を見ると、老若男女色々な人がいて、ああ人間ってたくさんいるんだなと思った。お年寄りが自分の孫みたいな子にうちわを仰いであげていたり、友人と一緒にサーフィンしている大学生らしい人がいたり。
この海だけでも色々な人がいる。世界中の人間はたくさんいるのに、何で俺と真田は出会ったのだろう。…一緒にいてもただくだらない事を話しているだけなのに。
その理屈だと俺もあの家族の中に生まれたのは、何か得るものがあってのことだといえる。
…家族か。
俺は、この海にいる家族連れのように、海に来たことなんてなかったし、そのほかの楽しいレジャースポットなんてものに遊びに行ったこともなかった。
それは、きっと真田もそうなんだろう。
いや、小1のころまではふつうだったのだから、行ったことがないなんてことはないか。
海は、青くて、きらきら光っていた。太陽の光が反射しているからか。
でも、そんな光っている海の中でも沖の方では魚たちが食い合っているのだろう。
結局みんなそうなのかもしれない。
明るく見えたり、完璧に見えたりするかもしれないけれど、実際はだれもが完璧ではない。心の中に何かを抱えている。
でも、その悩みを誰かと共有することで、少しは楽になるひとも、たくさんいるはず。
「なあ、真田」
俺は隣でにこにこしながら、おいしそうにおにぎりを食べている真田に話しかけた。
「俺は、弟がいた」
心の中のどこかで、あの冷たく一人だった俺は叫んでいる。
やめろ、こいつに話しても理解などしてくれない。わかったふりをするだけだ。所詮他人事なのだから。
実際お前だって、真田の過去の話を聞いても、ただうなずいていただけだっただろう?ほら。やめるんだ。
でも、俺はもう、そのことを話すことに決めていた。
俺も、もう楽になりたい。
「俺は、昔から母親の期待外れで、何も出来ずに暴力を振るわれていた。
でも、6歳のとき、弟が生まれた。名前はのぞみ。
男の子なのにな。それこそ、両親の希望が託されていたんだろう。
俺は、のぞみが生きていた間だけは、暴力を振るわれなかった。
母親は、のぞみを完璧な子にしようと、厳しい教育をしていたから。
でも、俺もそれで安心しすぎてた。まさか、のぞみが自殺するなんて思ってなかった。
のぞみが死んだのは俺が中2のときで、つまり、小3のとき。あいつはその時もう、限界だったんだと思う。あいつは、友達はできたけど、母親の束縛のせいで、放課後その友達と遊ぶことができなかった。それが苦しくて、いつも八つ当たりしてた。そのせいで暴力をたくさん振るわれた。
あいつは、頭がよかったから、自殺するという選択肢もあることをしっていた。
それで部屋の蛍光灯で首をくくった」
真田はそこで大きく目を見開いた。
「じゃあ、またお母さんの束縛は水谷君に?」
「そうだよ。母親は、俺に友達を作ることをやめさせた。友達など気が狂う原因になるからいらないと。あいつは、弟のことさえもばかにした。でも俺は逆らえなかった。そこから1年間殴られ続けながら受験勉強してようやく今の高校にうかった。
高校に入ってから、図書館には勉強しに行っていると思われている。暴力は未だに振られる。俺はあの母親から抜け出したい。でもまだ無理なんだ。いつか必ず逃げてやる」
「…。私が何とかしてあげる」
その言葉は予想外だった。何で、こんなにこいつは一生懸命になってくれるんだろう。でもそんなの逆効果だ。
俺は真田の肩に手を置いた。やめろ。そう念じた。
それは俺なりの強制の仕方だった。
それを察したのか、真田はしぶしぶうなずいた。
「タイムカプセル早く埋めようぜ」
俺は逃げるようにそういった。母親と真田を関わらせたくない。
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