第15話買

海の近くの駐輪場みたいなところから見ても、海には大勢の人がいた。

心なしか、家族連れが多めな気がする。

それは俺にとっても真田にとっても酷な現実だった。

でもそれに気付かないふりをして、自転車を降りた真田はうーんと気持ちよさそうに伸びをした。

「なんか潮の香りがするね!海だからかな?」

「潮の匂い分かるとか。すごいな」

「えへへ、コンビニに何かお昼でも買いに行こっ」

腕を引っ張られるままに、歩き始める。

コンビニなんて海の近くにあったのか。もしかしたら真田は前にクラスメイトとこのあたりに来たことがあったのかもしれない。

まあそれでもかまわない。別に俺が真田が共に海に行った、初めての人なんて言われても反応に困る。

そのコンビニは国内中にたくさんの店舗がある有名なコンビニで、いろいろ安心して買えた。

…。俺はそういうところ心配性だ。食品は加工とかしてあるものはなるべく買わないようにする。

「ちょっと!水谷君!このあずきバーおいしいんだよお」

そんな俺をよそにあずきバーを進めてくる真田。

あずきバーか。だったら俺は…。

「抹茶アイスだろ、そこは」

「は?水谷君、日本人でしょ?あずきのおいしさが分からないなんて!」

「いや、あずきが嫌いとは一言も言ってないし。それに抹茶も日本人が好むおいしさだろ」

「海はあずきバー!」

「意味わかんないし」

何かのCМかよ。

真田はおもしろいっていうかなんて言うか柔軟な発想を持っていて。

それは俺にはないものだから興味を惹かれる。

なんか、もっと一緒にいたくなる。

これが「ともだち」か。

初めての感覚に戸惑う自分がいる。

「よし!あずきバーは水谷君も必ず買わなきゃだめな必須商品ってことで!あとはおにぎりを買おう!パンよりおにぎり派なんだよ。私」

「別にどーでもいい」

俺はさらっと真田を流したつもりだったのだけれど、真田は手ごわかった。

俺からいったん離れ(ちょっと安心していた)、おにぎりやアイスコーナーに向かったはずの真田は3秒後には、俺の手にあずきバーとおにぎり(鮭とつなマヨ)を押し付けた。

「今日は私がわざわざ暇な水谷君を誘ってあげたんだから、私の好きなもの買ってよね」

別に俺は海に行きたかったわけではないのに。

お前に勝手に拉致されたようなものだよ。

そう思ったのだけれど、生憎、元から言っているようにあずきバーは好きな方だし、おにぎり、特に鮭とつなマヨは俺の大好物といっていいものだった。

…、何で真田は俺の好みがわかるんだよ。

一種のホラーだ。

でも結局、にまにまする真田を遠目に見ながら、そのあずきバーとおにぎりを買った。

何か、真田の言いなりになるのは癪に触るけど、大好物を持ってこられちゃたまらない。

ちなみに真田はあずきバーとから揚げ弁当(←おにぎりじゃないんだ)を買っていた。

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