第14話海

そのあと、俺は何度も真田を止めた。

日焼けするから、とか、恋人に勘違いされる、とか、どうでもいいことを言い、真田を止めようとした。

でも頑固な彼女は止まらず、結局俺が折れた。

図書館を出て、俺はバス停のほうへ向かおうと駐輪場とは逆方向に折れる。

しかし、真田は駐輪場のほうへ進み、俺の自転車の荷台に座った。

「何してるのー、水谷君?まったく往生際が悪いんだからー」

「俺はあなたの行動が理解できないんすけど」

…バスで行くんじゃないのか?さっきはシンクロしているなどと言ったが、前言撤回。シンクロなど全くしていない、俺は真田観月の行動が全然予測できないし、理解できない。

真田は手まねきしてくるので、俺は彼女に近づいていく。

何なのだ、一体。

俺はあの条件のおかげで彼女とともだちの振りをしているだけなのに、ただ振り回されている感じもする。ああ嫌だ。

「え?バス代節約!自転車2人のりして行こー!」

自分も父親と同じように捕まりたいのか、真田。

なぜこんなに危険なことしか彼女は思いつかないんだろう。将来一番大人にしてはいけない高校生だ、きっと。

「危ないっすよ。俺、真田のこと日ごろの恨みでどっかに落っことしますよ?」

「大丈夫だよー。私の水谷君はそんなことしないから!」

何を根拠に。それに「私の」とはなんだ。

俺は。俺は。お前の所有物ではない、誰の所有物でもない。

俺は俺だけのものだ。

誰にも操られなどしない、したくない。

そう、理性では思っているのに。

俺はまるで彼女に魔法でおびき寄せられているかのように。

サドルに跨った。

「事故っても責任持たないっすから」

真田の顔は見えなかった。当たり前だ、前を向きながらハンドルを操作しているのだから。

でも、きっと笑顔だったんだろう。

そんなのわかりきっている。


図書館の敷地を出た後は、近くの自転車道路から海を目指す。

2人乗りしているのに、彼女が乗っているという感覚はあまりなく、結構楽なものだ。

まあ、そんなこと言わないけれど。

「真田、あんた結構体重あるんすね」

「ちょっとーー!」

バシッ。

結構強めに背中をはたかれた。

俺は前につんのめって、自転車のバランスを崩しそうになる。

何とか体勢を整え、また前に進みだすと。

「へっ。ざまーみろ」

耳元で、こんな声がした。

…。

落ち着け、落ち着くんだ自分。

ここで動揺することなど、相手の思うつぼだぞ。

でもなんか最近の俺はおかしい。

理性が行動につながらない。

「ちっくしょー!」

俺は叫んだ。

叫んで。そして急にスピードを上げた。

さっきまでの速度とは全く違う。

花屋、美容院など、景色がどんどん遠ざかっていく。

「え、ちょ。うそでしょ水谷君~!」

真田は今まで荷台を手でつかんでいたのだが。さすがにこのスピードには耐えきれないようで。

ぎゅっ。

「…?」

ありえない。温かさが、ぎゅっと俺を抱きしめる。

真田は俺に、この俺に、抱き着いていた。

「ごめんごめん。水谷君。ふざけたの悪かったよ。だからもうちょっとゆっくりめにして」

「…やだね。」

このぬくもりをもう少し感じるのも悪くない。

俺はまたスピードを上げた。



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