第13話心

俺と真田のともだちという関係は無事に8月まで続いていた。

無事に?いや俺はそれを望んでいるわけではないのだからその表現はちがうのかもしれない。

8月。もう、夏だという主張をしたいのか、緑が多い俺の地元ではせみがたくさん鳴いている。

気づけば夏。されど、周りの人々にとっては待ち望んでいた夏。

それは真田も例外ではないことを、理解していなかった。

夏休みは幸か不幸か、他校に比べたら長い。俺はすることもなく、1日中図書館にいて、時間つぶしをすることが多かった。宿題など、やる気も出ない。

そんな俺の習性を真田も気づいていたらしい。

8月の3日目。

開館と同時に自動ドアに入っていこうとした、俺の手を掴んだ人がいた。

…、もちろん、真田。

「おはよう、水谷君」

「…おはようっす」

俺はなりふり構わず中に入ろうとしたけれど、真田は手を離さなかった。

、何か企んでいるな。

ともだち期間は3か月を超えているため、真田の行動はなんとなく理解できるようになった。

それはまあ、的中していた。

彼女はあの怖いほど完璧な笑顔を崩さずに俺に言った。

「水谷君は、今日私と海に行くんだよ?」

「……は?」

海。

海。バスに乗れば結構近い距離なのだが。

それにしては真田は荷物を持っていない。きっとこれははったりだ。真田に対する俺の従順度を確かめたいのかもしれない。

そんなの、俺には通用しない。

「真田は、本当は海に何て行く予定じゃないんすよね?だって荷物それだけですし。

嘘は通用しないっすよ?」

俺は反論したのに。

真田はさらに1段上回ってきた。

「だって泳がないもん。今日はタイムカプセルを埋めたくて」

泳がないなんて。そんな可能性は消していた。

それに、タイムカプセル?

そんなの、俺と埋めて楽しいのだろうか。

ただの淡泊な思い出になりそうだ。

「私は水谷君だから、誘うんだよ?水谷君、俺と一緒にそんなことしても…なんて考えなくていいから!」

…、今声に出していなかったのに。

真田もそうなのか。いつの間にか俺と真田はシンクロできてしまう関係になったようだ。嬉しくもないし、悲しくもない、ただの事実として。


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