第10話花
「真田。俺、何でお前んち行かなきゃいけないんすか」
「だって水谷くん、殺人事件的な人間のゆがみが好きなんでしょ?
殺人事件が起きた家に来れるんだよ、最高でしょ?」
確かに好きだけれど、笑いながらいう話じゃないだろう。
自分で自分を傷つけるようなこと言って何が楽しいんだ。そんなの、ただむなしくて悲しいだけだ。
そんなこんなで今の状況を説明すると。
俺と真田は電車に揺られている。お互い帰宅部なので、電車内にはあまり人がいないような時間に、学校から出発することができた。
真田の家は、あの図書館の地域なので別に遠いというほどでもないから、困りはしない。
この前、なぜ図書館にいた俺に声をかけたのか。
そして友達になったら真田は俺に何をしてくれるのか。
その条件を聞いた瞬間にうなずいた俺はくるっているのだろう、絶対に。
田園風景の緑を興味深そうに見つめる真田を横目で見ながら、そんなことを考えていた。
俺と真田は、家が近い方なので、いつもと同じ駅で降りることができた。
そのおかげで電車代も余分にかかるなどということはないので、日々金欠の俺は助かる。
俺は、駅を出てから、スーパーやぶきという個人経営のスーパーがある右に曲がるのだが、真田は迷わず、クリーニング店がある左に折れた。
もちろん俺もそれについていく。
図書館の地域で起きた殺人事件。その場所は知らなかったので、それなりに心が弾んでいる自分に気付く。
それがどのような事件かは知っているけれど、俺は別に真田に同情なんかしなかった。
というか、なれるならば俺が真田になりたい。
「私はね、正直、自分の境遇のこと、恨んでたんだ。
だってさあ、私は何も悪くないじゃない?それなのに、父親のせいでいろいろ差別されたりしてきたから」
「殺人事件なんかじゃなくても、差別される人はいるよ」
…。例えば俺とか。
真田は、俺の言葉を重くは受け止めず鼻の下を指でこすった。
「そうだね、そう考えてみれば高校はばれちゃう前は、友達たくさんいたし幸せだったのか」
そうだと思う、本当に、
彼女は幸運な方だと思う。
真田が住むのは、図書館のすぐ近くの桐突山(きりつきやま)という山の近くの高台にある家で周りに家はなく、あるのはたくさんの木々で、その中にぽつりと建っている感じだった。
彼女の住む家は、ここで殺人事件が起きたのかと、ある意味感心してしまいそうなほど、外見は何も変わったところなどなかった。
赤い屋根に白い壁というのはどこかの外国の家を連想させるし、その家の目の前に広がる、車が2台ほど停められそうな駐車場はどこの家にもあるものだった。
ただし、異様なのは、その駐車場は24時間365日、どの車も停まることがないということだ。
つまり、ずっと空車のまま。
その家のドアの隣あたりには、鉢が2,3個置いてあり、パンジー、オレンジの樹などが植えてあった。
「花が、好きなの?」
「花、というより植物だよ。植物は私が水をかけてあげなきゃ枯れちゃうでしょ?私は水をかけてもらえることがあまりなかったから、その代りにこの子たちにって」
馬鹿でしょ、そう俺に言うかのように、彼女は眉を下げながら笑った。
馬鹿だ。
愛を求めるのなんて、もらえなかった愛を今度は自分が与えるだなんて。
俺には到底理解できない。
愛だの、恋だのは必要ない。
ただ1人で生きる力がほしいと俺はこんなにも望んでいるのに。
そんなのを望んでいない人間は手に入れることができるのに、強く願っている俺は手に入れることができないだなんて。
理不尽だ。
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