第7話笑
俺は意味が分からなかった。
ケータイの着信音がして目の前には人気者。
彼女はにやりとしながら、ケータイの電源を俺の目の前でオフにした。
「やっと気づいたね!」
やっと。
そう口にしているという事は、真田観月は俺のことをしばらくの間観察(?)していたことになる。
なぜ俺みたいな教室では空気のような存在のやつが、人気者に観察されなきゃいけないんだ?
というより、気づかなかった自分にもあきれる。本を読むとその世界に入り込んでしまうというのは昔からあることだけれど。
「ねえ。水谷くん?返事してよー」
返事、といわれてもなんと反応していいのか俺には分からない。
気づかなかったことを謝ればいいのか、それとも驚いたふりをすればいいのか。
分からない。
そもそも俺が人気者だったとしたらただクラスが同じだけで、別に仲良くもない人間なぞに声をかけないと思う。
俺の思考回路がおかしいのかもしれないが。
人気者にとって一回会ったことのある人はもう仲良しの友達なのかもしれない。
「…、、なんで俺を観察してたんすか」
人気者はそんなことを聞かれるとは予想もしていなかったのか、目がゆらいだ。
にっこり笑っていた口元が少しゆがんでいる。
「ちょ、ちょっと敬語って…。やめてよ同級生だよ?」
…なんだ、敬語であることを驚いていたのか。または言いたくないから話をそらそうとしているのか。
俺は人と話すとき(そんなことは1か月に数回あるかないか)は、その相手が年下だろうと年上だろうと、老若男女関係なしに敬語だ。
それは俺のくせでもあるし、呪縛であるのかもしれない。
だからやめることは、できない。
「俺の癖なんで…。あと観察してた理由を教えてください」
「え、えーうん、そこに水谷くんがいたから」
あまりにも歯切れの悪いその返答は、俺じゃなくても嘘だと思うだろう。
…。まあいい。俺は別にこの人とこれ以上関わる必要性はない。
言いたくないのならば言わなければいい。追及はしない。
俺はソファを立った。
違う場所で本を読もうと思ったからだ。くるっと人気者に背中を向ける。
ちょうど面白い展開になったところだったから、それを人気者に邪魔されては困る。
「待ってよ、水谷くん」
腕をつかまれたのを感じた。
なぜ人気者はそこまで俺を追うのか。
不思議でならない。
その不思議さがもどかしくもある。
「その本、私が読みたい」
ああ、無遠慮。ああ、自己的。
しょせんクラスの中心にいるやつなんてそんなものだ。
人が本を読んでいるときに勝手に声をかけ、果てはさらに勝手にその本を取ろうとする。
めんどくさい。
俺の至福のものを取ろうとするとは。
「いいですよ」
俺はそう言って、彼女に本を手渡した。
人気者は読んでみたいといいながらも別段嬉しそうな顔ではなかったが。
ふつうの人ならここで抵抗するのだろう。
でも俺は抵抗しない。
人気者としゃべることがめんどくさいから。
関わりたくない。
「だからもう俺に金輪際話しかけないで下さい」
人気者の反応など聞きもしなかったし、その顔も見ようとしなかった。
俺は立ち止まっている人気者から離れていった。
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