衣笠彰梧氏によるMF文庫J (KADOKAWA) より連載中の『ようこそ実力至上主義の教室へ』2年生編が完結していました。
本作は学園黙示録などという大袈裟なフレーズはとにかく、A・B・C・Dクラスで文字通り実力(学力以外にも様々な要素を含む)で評価され、成績が良いクラスの順にA>B>C>Dクラスとなり、Aクラスで卒業すればどんな進路でも希望が叶うと言われています。
主人公・綾小路清隆は最下位のDクラスからスタートしますが、陰に陽に表に裏にと綾小路の様々な手練手管により、2年生の最終テスト時点で遂に綾小路のクラス(作中では堀北鈴音をリーダーとする堀北クラスと呼ばれている)がAクラスまで昇りつめます。
三期に渡りアニメ化もしており、人気タイトルとしても知られていますが、かくいいう私もラノベでは日本一面白い作品だと思っており、その一因は主人公・綾小路清隆のチートともいえる高い身体能力、学力よりも、人をコントロールする能力、そして周囲を巧みにコントロールしながら周りもライバル達までも成長させていくという部分や、そしてその冷酷さも想像の斜め上を行き、平気で人を切り捨てられる他の作品ではみられないようなとても主人公とは思えない姿に、ある意味カタルシスを感じさせるのかも知れません。
なんせ第一期のアニメの最終回のラストシーンが
「俺はお前等(堀北鈴音、櫛田桔梗ら作中のヒロインを含め)のことを道具としか思っていない」
ですからね……。
この男がどれだけ外道であるかというと、自分の計画を達成するために、2年生の最期のテストで、ライバルクラスのリーダーである女子で本作のヒロインの一人でもある、一ノ瀬帆波を自分に好意を抱くように仕向け、1年以上(多分文庫本にして十冊以上)かけて信頼させきったところで、対決のシーンでその事を打ち明け、傷心の一之瀬からあっさりと勝利を奪います。
一ノ瀬は綾小路とは真逆の非の打ちどころのない善人というべき存在であり、まさにヒロインと呼ぶのに相応しい少女でしたが、綾小路のコントロールにより、少しずつ狡猾さも持ち合わせるようになりますが、それでも綾小路の卑劣な罠には足元にも及ばず、既に崖っぷち(1年の時はBクラスだったのが、2年の最終テストの時点ではDクラスまで落とされていた)だった一之瀬クラスはリーダーの致命的な敗北により絶望のどん底に叩き落とされ、このクラスがAクラスに這い上がる可能性はほぼゼロになります。
この再起不能ともいえる程致命傷を受けたクラスを、綾小路は一之瀬の退学を条件に自分がクラスに移転することで救ってやるといいます。
何故、綾小路にとって損とも言える提案をしたのか―それは、綾小路の目標としては、将来が約束されたAクラスで卒業することには興味がなく、同学年の四クラスを拮抗させ争わせるのが目的だといいます。
一之瀬退学を条件にしたのは、2年間リーダーを務めていた一之瀬は信望者も多く、綾小路の方針に対する邪魔になりかねない為だといいます。
まぁ自分を好きになってくれた人に対してとんでもない提案をする外道ですよね(滝)
多分、本作読者の99パーセントはここまで読んだ時点で一之瀬が完全に詰んで、退学を受け入れるしかないと思ったはずですが、この一之瀬という女の子は読者(少なくても自分)の想像以よりも遥かにしたたかな娘でした。
元Aクラスのリーダーでヒロインの一人でもある坂柳有栖は綾小路(あと唯一綾小路に対抗し得ると思われる高円寺も?)を除けば学年で最強の頭脳とリーダーとしての資質もありましたが、彼女は綾小路の幼馴染的な存在ということもあり(実際は幼い頃の綾小路のことを知っており、その天才ぶりに一方的にライバル意識を抱ていたというだけですが)、綾小路の本性を知りながらも、綾小路に好意を抱いていました。ですが、彼女の場合、綾小路の意図、つまり自分が邪魔だということを知り、自ら退学するという道を選びます。
一方、坂柳と同じく、綾小路に好意をよせ、本心を知った一之瀬は坂柳と真逆の行動を取ります。
綾小路に一方的に「介錯」されるのが既定路線かと思われた一之瀬が
清く正しい品行方正の塊みたい一之瀬が
彼女の言う通り綾小路の「目にも映っていなかった」としか思えない一之瀬が
あの綾小路をして彼女に「絡めとられた」と……。綾小路が自らの敗北(というのは大袈裟としても失敗)を認めた数少ないシーンではないでしょうか。
この意外性が本作の面白さでもあります。
この事から当初の予定から、綾小路の方針を変更せざるを得なくなったのは確かでしょう。
精神的弱さというハッキリとしたウィークポイントを克服した一之瀬は、今後は退場した坂柳的な立ち位置(勿論坂柳とは全く別の手法)で綾小路と対峙するのでしょうか。
一之瀬に関しては『推しの子』の黒川茜を連想させます。黒川茜も主人公に(勿論計算ずくで)救われ、後から利用されていることを知りながらも恋心を抱き続け、恋仲が破綻後も主人公を協力し続けます。
こういう設定は男本意にすぎると忌避する読書も居るかも知れませんが、『義経記』の鬼一法眼の娘やら、『俵藤太物語』の平将門の娘やらの様に女性が利用されて終わりという時代でも無いので、今後も主人公にして「ラスボス」でもある綾小路に一矢報いるヒロインが出て来るのではないでしょうか。
三年生編も楽しみです。