概要
誰が悪いわけでもありません 皆、己が大切なものを守ろうとしていたのです
「峠の上から初めて村を見た時は、くらくらしました。切り立った崖にはさまれた谷底に、赤い瓦屋根の家が並んでいて、教会のような建物があって、学校があって、集会場があって、その向こうに砂浜がのぞいていて、真っ青な海がたゆたっていて。あんまりきれいで、不吉な感じがしました」
「きれいなのに不吉」
「きれい過ぎるものを天が嫌って、崖がパタン、っと閉じて、谷底の村を飲み込んでしまうのではないかと思ったんです」
婦人は口をつぐむと、深い藍染めの嶌紬の懐から懐紙を取り出した。
そして、きゅっと唇を噛むと懐紙をくわえて微笑んだ。
「ですから、どうぞ、私の代わりに、南大嶌へいらっしゃって」
婦人は口紅と血潮のにじんだ懐紙を差し出すと、目を逸らさずに彼を見つめた。
依頼とあらば行かねばならぬ稼業ではあるも
「きれいなのに不吉」
「きれい過ぎるものを天が嫌って、崖がパタン、っと閉じて、谷底の村を飲み込んでしまうのではないかと思ったんです」
婦人は口をつぐむと、深い藍染めの嶌紬の懐から懐紙を取り出した。
そして、きゅっと唇を噛むと懐紙をくわえて微笑んだ。
「ですから、どうぞ、私の代わりに、南大嶌へいらっしゃって」
婦人は口紅と血潮のにじんだ懐紙を差し出すと、目を逸らさずに彼を見つめた。
依頼とあらば行かねばならぬ稼業ではあるも
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