第4話
後に続くと待ち合い所の中は空調が心地よかった。
観光案内を兼ねた券売窓口は無人で、待ち合い所の一角のカウンターが喫茶コーナーになっていた。そこには水色の事務服を着た年輩の女性がコーヒーをいれていた。いれ終わるとベンチに座っていた同年配の男性がおかもちにコーヒーとサンドイッチボックスを入れて出ていった。どうやらテイクアウトがあるらしい。
「いらっしゃい。ええっと、チケット、案内、コーヒー」
女性は窓口とカウンターを交互に指さして言った。
「すみませんね、主人が今出前なんで、私がここ全部やってるんですよ」
「おばちゃん、アイス2つください」
「おや、満干ちゃん、お客さんの御接待かい、偉いね」
「おじさん、え、っと、先生、兆司先生は、研究に来たんだって」
「ほう、研究にね、えらい先生なんだね」
女性は満干の父親のように屈託のない笑顔を浮かべた。
「アイスは、バニラ、チョコ、パッションフルーツ、ええっと」
「嶌アイスだよ」
「ああ、 玉紫だね、きれいだからね」
女性は水道水で手を洗うと、ガラスケースがはめ込まれた冷凍庫に並ぶカラフルなアイスクリームボックスから、木べらで赤紫色のアイスをすくうとアイスクリームコーンになすりつけていって屹立した崖のような形を作った。
「はい、嶌アイス二つ、どうぞ」
「ありがとう」
満干は小銭をカウンターの木をくりぬいたトレイに置くとアイスを受け取った。
「兆司先生、どうぞ」
「ありがとう。ごちそうになるね」
兆司は早速崖のてっぺんをひとなめした。
不思議な味だった。
見た目からすっぱいのかと思ったが、酸味はなかった。
えぐみともにがみとも違う、独特の強い風味。
少しねばりけがある。
けれど食べているうちに、すっぱくない柑橘類のようなさわやかさが口の中に広がっていった。
「おいしい?」
満干がきいてきた。
「不思議な味がする」
「不思議?」
「普通の美味しいとは違うかな。でも、口の中がさっぱりして、からだに染み渡っていく感じがして、からだ中がさわやかになっていく感じがするよ」
「ふうん、不思議な味なんだ」
兆司は脳もクリアになっていくのを感じていた。
町営の公共の施設で、まさか違法な植物を使った食品を販売したりはしていないだろうけれど、まだ見つかってない成分があったり、環境の変化で成分が変化してしまった、といったことがないとは言いきれない。
「お水をいただけますか」
兆司はアイスを食べ終わると水をごくごくと飲んだ。
美味しい水だった。
「温泉と湧き水が豊富なんですよ」
女性は観光案内コーナーからイラストマップを持ってきた。
それは奥にしまってあったもので、兆司が持っているものとは違っていた。
「観光用です。お店とか、食事処が載ってます。ただそれを作ったのが5年以上前で、もうけっこう店仕舞いになってるとこがあるんで、表には出してないんですよ。でも、まあ、景勝地のおすすめスポットは変わりないんで、参考までにどうぞ」
「ありがとうございます」
そうこうしているうちに、満干の父親が呼びにきた。
添の嶌 美木間 @mikoma
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