この物語はたびたび登場する虫――それも常軌を逸した特異的な描写――が可能とする穢欲が臭い立つ湿度の高い陰惨たるホラーだ。
病死とされた肉親の死因。忌女の祟りが呼び寄せる禍痕の痣。口から湧いて出る虫がなんとも悍ましい。
その死の秘められた謎に興味を加速させる展開が憎いほど巧みと言わざるを得ない。
それを可能にする村を支配する力の存在が見えない形で頭上を覆っているような感覚。
謎が謎を呼ぶ極度に閉塞感のあるこの村で一体、何が起きているのか。
何が嘘で何が真実なのか……
誰が敵で誰が味方なのか……
恐怖と、混乱と、狂気と……もち上がる臓腑に何回吐いたかも分からない胃液の中から這い出てきた蠢く存在。
目を疑いたくなるそれは、身の毛のよだつそれは、確かに息衝いて……
それが真実なのか。
何もかもがわからなくなって、どうしようもないくらい感情が混乱して、痛くて、痛くて、死んでしまいたくなるほど痛めつけられても死ねない私。
視界不良なホラーが外郭から内側へ這いまわる蟲のように忍び寄る。
あなたはこの恐怖に耐えられるか?
因習というものは、外から見れば禍々しくとも、内にいれば「そういうもの」となる。
初手から、ああこういうものなのだという空気感を突きつけられ、恐怖しながらも真実が知りたくなる。おそらく、この作品はそういうものだったのだろうと思います。
主人公を取り巻く環境、一言で表すのならば「おぞましい」になるのだろうが、きっとこの言葉だけでは不足だろう。
読んでいくにつれ、状況は二転三転していきます。誰を信じるのか、何が真実なのか、きっとこうだと思ったものはひっくり返され、主人公と共に読者も渦の中に叩き込まれていく。
だからこそ、知りたくなるのだ。これが、どのようなものなのか。
ぞくりとするおぞましさは、まさに因習ホラーと言えるだろう。
さて、貴方は最後に何を見るのだろう。
ぜひご一読ください。
始まりからすごいです。
ねとり、じめり、とした空気が読者に伝わる表現力の高さ。読み始めてすぐに物語に引き込まれていきました。
主人公への仕打ち、彼女を取り巻く環境の酷さ、不可解な謎、そして虫。
けれど、そういうものなのです。この村では。
だから、誰も彼女に手を差し伸べない。助けない。
因習の恐ろしさに、ぞくりと背筋に悪寒が走るほどです。
何度も主人公には危機が訪れ、騙されたりもして。
誰を信じていいのか、誰を信じてはいけないのか。主人公と一緒に読者もわからなくなってきます。
それだけ臨場感があり、どっぷりと物語に浸かることができるという、満足度の高い作品となっています。
皆様もぜひ、読んでみてください。
無数の虫がうごめく沼沢に、裸足でさ迷う孤独な人影。それが、本作から通して得られる印象だ。しかも、足はトゲや石で傷まみれな上に化膿しており、疲弊しきって目もろくに開けられない。
そうまでして、そんな犠牲を押しつけてまで清めねばならない……または祓わねばならないケガレとは何なのか。正体を知ることで、解決につながるのか。読者はとにかく知らねばならぬ。知らねばならぬが、もうその段階で、すでに同じような沼沢に踏みこんでしまっている。
倒れたら、その死体は腐乱し、さらなる沼沢の拡大へと結びつく。だから、安心して良いではないか。次なる訪問者を待つ楽しみを手にできるのだから。
必読本作。