銘菓は知っている方も多いはずだが、ここで登場するのは「冥菓」である。主人公はその冥菓を代々守り伝えてきた和菓子屋の少女である。少女が住む世界は、あやかしと人間が共存しており、それが日常になっている。誰もが同じようにあやかしを見ることはできないが、「ここの博物館館長なら見えないと務まらない」と言われるくらい日々の暮らしにあやかしは馴染んでいる。
この作品で一つの見どころとなっているのは、主人公が訥々と話す菓子についての薀蓄だ。主人公は古い和菓子屋を継ぐことに初めは躊躇も見せているが、和菓子は大好きで、本も沢山読む勉強家である。魔除けになるヨモギ餅。占い入りのお菓子。何故鶴と亀の菓子は二つで一つと数えるのか。郷土の歴史と共に、お菓子についても詳しくなれる一作である。
また、菓子を通じて人間とかかわってくるイケメンなあやかしやカワイイ兎などのあやかしたちも読んでいて楽しい。番外編も始動しており、これからの物語も楽しみな作品である。
是非、ご一読ください。
「人見知り橋」を渡った先は、人とあやかしが暮らす不思議な街。
はてさて、一子一妖相伝の「冥菓道」とは――?
冒頭に登場する耳慣れない言葉に惹かれて読み進めてみれば、あれよあれよと展開していく「和」の世界。
蜜の色に、新茶の緑に、「朧桜」の緋色。
ニッキに、甘味に、金木犀。
色に味に香りに人にあやかしに、いにしえの念に現代の恋に父の想いに、五感も時空も混ざりに混ざって蠢き合う不可思議な世界で、魅力溢れるキャラクター勢が「冥菓」を求めて秘密を追います。
舞台は静岡県の三島市ですが、きっとどなたも、記憶の底にある古めかしい和菓子屋さんや、古い蔵を思い出すのでは?
華やかな世界観に、映像でも見てみたいな!と思いました。
そして…私はこの作者様のファンなのですが、この方は、相容れないはずのもの同士のミックスがとても上手いと確信しました。
混ざりそうで混ざりきらずに個性が生きる独特の融合…これぞまさに「和」の神髄だと思います。
和菓子と不思議なあやかし達が調和して生まれる新鮮な面白さ。
作者自身の愛が込められている作品は例外無く面白いのですが、この作品も間違いなくその部類に属するものだと思います。
菓子に限らず「食」そのものや、それにまつわるあらゆる事柄についての知識が、物語に彩りを加え、より鮮やかなものへと仕上げているように感じられます。
さらに、作中に登場するあやかし達がとにかく魅力的。発する言葉や所作のひとつひとつに個性が詰まっていて、時に可愛く、時に荘厳に、主人公の美美(みはる)とのやり取りに魅了されます。
あやかし達の中で特に異彩を放つ「朧桜の君」の魅力を是非味わって欲しいです。
この作品が如何に作り込まれているかは、二十三話と二十四話の間にある「冥菓道覚書」に目を通してもらうだけでも解って頂けるかと思います。
精細な描写でつづられる、あやかしと和菓子の不思議な物語。
次々に登場する、謎多きあやかしたち、そして美味しそうな甘味たち。
時に怪しく、時に甘く、ふわりと香りが漂うようで、ドキドキと胸を躍らせます。
さらに、個性豊かなあやかしたちに劣ることないヒロインの美美〈みはる〉。
彼女の和菓子に対する熱意とウンチク語りも、楽しく舌を巻かれます。
はたして、あやかしたちの思惑は?
美美はこの地でどんな“冥菓”を作るのか?
あやかしと関わり、助け合いながら、少しずつ前へ進み成長していく美美の姿に、
読んでいてほっこり心が温まりました。
香り高く味わい深い和風ファンタジー。ぜひ、ご賞味ください!
「ひと口食べれば、情景が広がる。
人の甘味の記憶を刺激する。」
作中に現れたその文に、ああなるほど、と膝を打った。
なぜなら、本作に登場する食べ物や飲み物がすべて、
単なる味のみならず情景を伴いながら美しく描写され、
読み手の味覚の記憶を豊かに刺激してやまないのだ。
かつて東海道の宿場の1つとして栄えた静岡県三島市。
清らかな水の流れる富士山麓のこの町には、昔から、
人とあやかしとが共存する暮らしが根付いていた。
主人公、美美《みはる》もあやかしの見える体質だ。
美美の実家は和菓子屋だが、彼女に家を継ぐ気はない。
そのはずだったところ、母が倒れたため帰郷した美美は
「冥菓」を巡る人とあやかしの事情に巻き込まれていく。
果たして、「冥菓」とは一体どんな菓子なのだろう?
和菓子について語り出したら止まらない女子大生の美美、
美美の幼なじみで人間の工とあやかしの井桁、といった
魅力的な登場人物が生き生きと描かれるキャラ文芸作品。
三島の情景が目に浮かぶノスタルジックな雰囲気も素敵。
これからどんな人、どんなあやかしが登場し、
どんなドラマが展開されるのか、楽しみです!