人とあやかしの間でひそかに受け継がれてきた「冥菓道」とは?

「ひと口食べれば、情景が広がる。
 人の甘味の記憶を刺激する。」

作中に現れたその文に、ああなるほど、と膝を打った。
なぜなら、本作に登場する食べ物や飲み物がすべて、
単なる味のみならず情景を伴いながら美しく描写され、
読み手の味覚の記憶を豊かに刺激してやまないのだ。

かつて東海道の宿場の1つとして栄えた静岡県三島市。
清らかな水の流れる富士山麓のこの町には、昔から、
人とあやかしとが共存する暮らしが根付いていた。
主人公、美美《みはる》もあやかしの見える体質だ。

美美の実家は和菓子屋だが、彼女に家を継ぐ気はない。
そのはずだったところ、母が倒れたため帰郷した美美は
「冥菓」を巡る人とあやかしの事情に巻き込まれていく。
果たして、「冥菓」とは一体どんな菓子なのだろう?

和菓子について語り出したら止まらない女子大生の美美、
美美の幼なじみで人間の工とあやかしの井桁、といった
魅力的な登場人物が生き生きと描かれるキャラ文芸作品。
三島の情景が目に浮かぶノスタルジックな雰囲気も素敵。

これからどんな人、どんなあやかしが登場し、
どんなドラマが展開されるのか、楽しみです!

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