添の嶌
美木間
プロローグ
それを十時に重ねると、嶌麻で縒った紐を器用に巻きつけて神の眼と呼ばれる結び目を作った。
胸の前で両腕を交差させると、神の眼の十字架を左手に持ち相手に向けると、右手のひらを心臓に当てた。
「天がわれらに与え給うたこのシマを退かぬ邪味魔煉奴に天罰をくだしたもれ」
結女至天連はそう叫ぶと、右手に渾身の力を込めて自らの皮膚を掴み破り、鬼の形相で心臓を抉りだした。
抉り出した後は、ほうっと毒気が抜けたようになり、至福の笑みを浮かべて両手を天に掲げた。
手のひらの心臓から滴る血は腕を伝い赤く染めていく。
結女至天連はにわかにのどの渇きを覚え、腕を伝う血をなめた。
神の眼の十字架を握った左手は、眩く光りを放っている。
相対する人の形をしたものは、
今出ていっても、皆もろとも結女至天連の力にねじ伏せられて消されてしまうとわかっている。
目の前の光景に肝をつぶして尻もちをついたまま岩陰で震えている外来の父親とその間にできた愛しい我が子、彼らを守るために人の形をしたものは、ぼろぼろの菰一つで立ち向かっている。
生血を使わねば力を出せぬとは、それいかがわしき証なりと、人の形をしたものは、結女伴天連に言い放つ。
天の係累たるわれに許されぬ言葉と、結女至天連は神の眼の十字架を人の形をしたものに向けた。
崖淵でにらみ合ったまま、力は拮抗し互いに動けぬまま、ふいに波が泡立ち火柱が天を突き、海は灼け、凄まじき風が一陣吹き抜け、崖淵のものたちをさらい、火柱に巻き上げた。
火柱は竜となり天に昇り、瞬時に波はおさまり凪ぎ、嶌に静寂が訪れた。
誰が悪いわけでもありません。
皆、己が大切なものを守ろうとしていたのです。
それを汲んで天が憐れみをかけ、そのものたちを救ったのです。
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