ギターとマシンガンと女の子(名前はけい)

 ここは、PARCO一階のあるカフェ___。

「最初はモバイル。。。(女の子)

(もう一方の女の子)なんとなく2かなー(そのあと、あくび伸びをする)」

 ある程度、賑やかである程度余裕のある空気の店内だ。栃木だ。

「ちなっちゃん、最近なんかおもしろいこととかあった~?」

 向かって座る相手の女の子に、けいという名の女の子が尋ねる。

 ずい、と寄ってくる向かいの子。

「お、そういう風に言うってことは、けい~、自分楽しいことあったんでしょ?はい、ばればれー」

 うーんと間を置くけい。意外な、顔つきで、窓を眺め始めるけいに、友人は先をうながす。

 しかしその前に

「動物飼い始めたんだー」

 動物飼い始めたんだー、という時の世間一般の表情とは全く違う類いの、色を眼に浮ばせた友人に、ちなつはただ次の一言を見つけられずにいた。

 ついさっきの話______。


 激怒の女の子、その前には、ほんの30cmほどの体長しかない黒と白の流線形の動物。

「あほんだらがあっ食べちゃダメだって言ってっぺ~!?」

「そうかっかするな、けい。一日で済むと言ったろう、我慢しろ、けい」

「済んでしまったら、それはそれでやばいんだって~」

 突如として、どこから入ってきたのかも不明な、謎余りあるマシンガンと名乗る海洋哺乳類のシャチに、よく似た超小型の生き物は、当たり前のように人語を喋りながら、こう宣言した。

「腹が減っているので、1日ほっといて欲しい」

 四畳一間の部屋には、まあまあ女の子らしい小さい小物などが並ぶ中、部屋の中心には不自然にも今にも、捨てられてしまいそうな無残にも弦が一本切れたギターが横たわっている。もちろん彼女のものではない。この動物と一緒にどこからか、出現してきたのだ。

若干、漫画などを見てきた免疫か、頭の片隅でこんなことも起こってしまうのかな、とおかしい方向に現実に対して納得している、恐ろしい適応力を見せている彼女は、シャチにこう切り返す。振り上げた拳をてもと(別の手)に、ばばっと、しまい込み、怒りを抑えながら。

「それはあたしの、CDプレイヤーだからぁ!このイルカパンダぁっ!」

 なんとこのシャチ(らしき動物)食べるから、ほっといてくれ、と宣言するなり、彼女の部屋にある電気製品を片っ端から、食い始めたのだ。たまったものではない。

「気にするな。こんなものたちが、もたらす以上の喜びをお前に、すぐにでも与えてやるのだから」

 がつ、ばき、がつ、びしん、とものすごい不愉快な音を立てながら、彼女のスペースが理不尽に侵されていく。たまった、本当にたまったものではない。

「お、ぅお、おの、本当にやめろよ、こらあ、(つかみかかる女の子<ビシンっ!>「いたぁっ!」

 マシンガンに、つかみかかった直後、背骨がそのまま周りのプロテインごと串焼き鳥に、なってしまいそうなほど、という形容が似合うほどの衝撃が彼女を襲った。

「調子に乗るなよ、小娘。わたしが告げたことに、逆らうでない。黙って、わたしを一日ほっとくのだ」

 眼の前の、度を越えた意味の解らなさに、身体に走る電撃の痛みに、30cmの小動物を始末できない己の無力に、けいは半泣きだった。そのまま家を出てきたのだ。ちゃっかり夕飯を済ませた後。

 母親には、ちゃんと日常を演じてきた。そして現在は、PARCOにて友人に話を聞いてもらっている、というわけである。

 友人はこう告げる。

「通報しなよ」

 そして、再び、けいは本日二度目の帰路についた。どたどたどた、とリズム良く階段をかけ上がる。母親には、告げられない_(迷惑はかけられないし、母親がこんな電気ショックを浴びたら、昇天間違いなしだという判断だった。本当は、ちょお!おかあああさっ変なのがいるぅう!と叫び散らしたい気持ち全開だった。)携帯電話を片手に、(女子高生にとっての、三種の神器の一つだ。もう二つはわからないが。)自分の部屋の前に、これほど重々しい覚悟を胸に立ったことはない。ぼそぼそと自分自身に確認する。

「これ以上なにかするなら、警察を呼ぶぞ。、、、以上なにかするなら、警察を呼ぶぞ。、、、かするなら、警察を呼ぶぞ。」

 正直、あんな小動物に、一般市民以上の権力を振りかざす必要があるのかは、疑問というか、彼女自身しゃくであったが、実際にどうしようもないのだから、しようがない。言葉が通じるみたいだし、説得できるなら、それがベストではないか。よし、よし、と繰りかえし確認したあと、「こら、動物っ!っれ以上、た、なにかするなら警察を呼ぶぞ!!!!」ドアを勢いよく吹き飛ばしたあと、できるだけ凄みのある声で、部屋の中にいる理不尽、その源に、説得以上脅迫未満を開始した。まあ、噛み気味だった。しかし_。 

「あ、、、あれ?」 

 確かに、自分の電気製品は、始めからなかったかのように、部屋の中で彼女の視界には入ってくれなかったが、それ以外はそのままだった。荒らされた形跡、といえるものは皆無だった。唯一、部屋の中央を陣取るオンボロギターと、それによりかかってすやすや、と眠っているシャチ、それらだけが、彼女にとってさっきまで許しがたかった異常だった。だが、今は眠ってしまっている。なかなか丸っこくて、愛らしい生き物ではないか、としばし眺め始めてしまった。一言、彼女はつぶやいた。

「明日、保健所に連れてって、鯨肉にでもすれば、まあ、許してやっかな」

 いろいろなことが腑に落ちないまま、心にもないことを彼女はつぶやき、そのまま疲れて眠ってしまった。だがその、翌朝である。「お前、ちょ、、、それだけはダメぇ!!あたしの、大事な、ほんとうに、ごめん、それだけは本当にあり得ない~~~~~~っっっっ(首をぶんぶん、もげるのではないか、というほど、の彼女)っ捕鯨してやる!(すざ、と立ちあがる彼女)<ビシン>(ほとばしる電流)はぁうっっ」

「黙れ。キンキン、やかましい」

 シャチは、もはや悪者だった。彼女の最後の電気製品、ドライヤーを、丸のみ中だった。無駄な知識で、申し訳ないが、シャチは咀嚼しない。裂いたら、丸のみである。さて、ただいま、午前なんと4時半である。彼女は、いろいろ許せない、本当に、いろいろ許せない。窓の外は、まだ真っ暗、鳥の声さえ聞こえない早朝、ぼりぼりと彼女の大切なものが、分解されていく音だけが響いている。もう、この変なのが、何者かはどうでもよかった。ただただ、自分のものが片っ端から奪われていく惨事を彼女は、力なくなげいた。表情などなかった。

「馳走であった」

 だまりやがれ、と彼女は心の中で呟いた。あー、学校休みたいなー。絶対クレープ食お。おごってもらおう、etc

「ところで、けい。あの犬が、どこに行ったのか、気にならんのか?ん?」

 うっせえ。

「まだ気付かんか?」

 あー、もう眠いしぴりぴり痛いしはー何もかも、もうどうでもいいっぺよ~

 びくっと彼女は、身を震わせた。突然、音楽が前触れなく鳴り始めたのだ。大音量だ。近所が心配だ。発信源はどうやら、この小動物の様である。彼女のCDプレイヤーに入っていた、Rollin' Stonesの有名曲である。何が何やら、彼女にはわからなかった。鳴り響く音楽よりも大音量で、シャチが喋り始める。

「けい。犬の恩返しはすでに、終わっているぞ」

 シャチが何を言っているのか、わから、、、彼女の思考が止まった。ボロボロのギターが何やら、寝る前と違うものを、かもしている。 


 ギターとマシンガンと女の子 第一話


「あれ?あのギター、眼がついてる?」

「犬の恩返しはすでに、終わっているぞ。」

 なんと、充血した眼である。充血した眼が、ぼろぼろギターに付着しているのである。これほど気持ち悪いものはない。

「きゃあ」

 悲鳴は、シャチの電撃にはばかられた。

「その気に障る音を二度と発するな。単純に、頭に血が上る」

 なんて理不尽な、と思いながらも、彼女の目は、その不思議なギターに停められている。

「ねえ、マシンガン、その眼は一体なんだべや?」

 気付いたら外は明るく鳴り始めている。夜は明けたのだ。ぼりぼり、と音を立てながら、そしてRollin' Stonesは完全放置鳴りっぱなしにしながら、シャチは応える。

「それはお前のものだ。けい。お前が助けた分だけ、ギターはお前の力になる」 

 この時、彼女の脳裏によぎった言葉は唯一つである。

「っいらねええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ


 おかしいことになった。 

「ねえねえ。あの人、何連れてるの?あれ」

 けいは、散歩に出ていた。彼女のためではない。

「、、、犬的に扱ってるけど、あれ明らかに、、、あれだよね?」

 とげとげのヘビメタのような輪っかを、胸につけ、シャチが、女子高生と散歩を、外に連れられている。輪っかには、縄が、その先には、彼女の手が。シャチはほぼ平行移動である。物理がおかしい。よく見ると、路面と接触している部分が、ドロリと融解している。

 どうやら、あのシャチ、生き物ではない。金属でできた物体の様である。だが、道行く人は拒絶はしても、未知のものに対して、通常は深く分析したりはしない。女子高生が、海洋哺乳類と登校している。認識はそこで止まる。

「、、、視線が痛いです。マシンガン殿?」

「気にするな。わたしだって、ある程度は恥ずかしい」

「ほんとか?なら今すぐ、ウチに帰ってほしい。」

「それはできん。まだ、わたし自身やらなければいけないことがあるのだ」

「勝手にやれや。一人で勝手にやれや」

「お前は、こんなか弱い、いたいけな

「言ってろ」

 坂を登ると、そこは公園だった。そこには、一匹の犬がいた。「あ」とけいは、声を意識せずもらした。「昨日の」その犬はぴんぴんしていた。

「あれ、あの犬、」

 彼女は、学校を休んで、ここへ来ていた。不良だなあ、と自分で思いながら、こんな状況に自分を追い込んでしまっている。

「目が良くなってる?」

「お前が治したのだ。」

 ぐるりと首をシャチに向けるけい

「あ、?あ、あたし何もしてないって!」

「いちいちリアクションがオーバーだな。ヒトによく言われないか?」

 む、とする彼女。シャチは続ける。

「いや、お前が治した。心の底から、あの犬の目が良くなってほしいと願った。ほんの数分でもな」

「いやいや、けど、実際はなんもしてないって」

「愚か者。願った、と言ったろう」

彼女は、すべてが腑に落ちない。おとぎ話か、と思った。 

「わたしは、人間の心を形にするためにやってきた。代わりに、人間のつくった物質を捕食して生きている。わたしの役目は、お前が助けたい、とする願いを、一つずつ実現するためにやってきたのだ」

 実は、途中からシャチの話は聞いていない。ただ、この小動物に無理やり持たされたオンボロのギターが細かく震えているのが、さっきから気になっている。彼女のカバンの中。

 パン、爆竹のような鋭い破裂音が鳴り響いた。「ひい」声を上げるけい。

「おーーーーーい、そこにいるの、兎瓦(うさぎがわら)じゃないかーーー?」

 後ろから、自分を呼んでる声がする。兎瓦、とは彼女の名字だった。

「やべ」反射的に、けいは身を小さくさせた。担任の、佐々木先生がなぜか、こんなところにいる。なんてこった。ある程度、優等生を演じてきたのに、これまでの自分のイメージが、崩壊する。自分は今、学校をサボっている。学校を、、、。ん?担任がなぜ、今こんなところにいる?

「さんきゅうな、兎瓦ー!だいぶ、よくなったよー!」

「へ?なんのことですか?佐々木先 

 言葉が止まる。カバンの中のギターが、しん、と静まり返ったのだ。そこまで、轟音を立てて、震えていたわけではないが。

「お前が持ってきてくれたんだろ?さっきの目薬ー、ほんとよく効いたよー」

「へ?、、、あ、はい、いや良かったです、ほんとにーいやっは」

「ははははは。ところでお前なんでこんなところにいる?」

 わけがわからない。とりあえず、適当なことを言って、その場をあとにするけいとマシンガン。

「そんで、そのシャチみたいのなんだ、生きてんのか?おい、だめだぞ、シャチを公園に連れてきちゃあ。」

 佐々木は天然だった。


「失敗した」

 マシンガンは呟く。

「え?へ?わたしはもう、何が何やらわからねーよ」

 けいは、目を泳がせて、キョドりマックスだ。

「お前の目を、治してやるはずだったのだ。犬のそれを治してやった代わりに」

「、、、、??」

 混乱を必死に抑えようとするけい。冷静さを必死に、空(くう)からかき集め、自分という存在と、これまで起こったことを確認する。うん、うんと順序を追う。最後に、ギターを手に取る。目はすでになくなっている。

「おい、目、もうねえじゃねえかよ?あ?」

「すまない。悪かったと言っている。こちらの手違いだ」

「あたしのやり損だべな。佐々木先生の健康なんて、比較的どうでもいい。いや全然どうでもいいい」

「悪かった!黙らないか、小娘が。アザラシよろしく跳ね飛ばすぞ、サル」

「開きなおってんじゃねえよ、おめえ!何も得るもんなかったじゃねえかよ、あたしにぃ!」

「犬は助かったではないか。お前の願いは叶った」

「CDプレイヤーは?ドライヤーは?あたしの大事なテレビは?ふっざけんじゃねえぞ、このシャチぃ!シーシェパードなんて怖くねえ!」

「まあ、まあ落ち着け」

「ああ??」

「そうだな。本当なら、これでわたしは用済みのはずだったが、もう少しお前のそばにいることにしよう。次こそ、お前に恩返しを」

「いいから、あたしのもの返せよ!!!!!!他、なんっもいらねえからぁ!」

「それはできん。すでにわたしの一部となってしまった。ただこのように」

 ぐぱあ、と口を開けるシャチ。ギラリ、と光る歯の奥に、ブラウン管がある。まさか。

 テレビが、鮮明な映像にて稼働している。けいは目を疑った。

「いやいやいや、こんなスリリングな観賞、ぜんぜん楽しめねえっぺ!あ、よだれ、キタナ!!!!」

「次だな。次こそお前に恩返しを」

 かくして、奇妙な物語は始まったのだった。 


「兎瓦のやつ、学校サボってシャチの散歩とは、けしからんなあ。明日HRで、説教だな」

 佐々木は、もうよくなった目をぱちぱちさせながら、二年ぶりの桜の色どりを楽しんでいた。

「ほんとうによく効く薬だった」

 近くに、よってくる犬がいた。

「おー、よしよし、お前も元気がいいな。なにかいいことでもあったか?」

 犬は目をキラキラさせているように、(人間の主観かもだが、)見えた。

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