マシンガンと女の子(名前はけい)5

 柚宇は、最高に張り切っていた。

「いやあ!男としては、ハンデっつうのは!これほど、燃えるものはねえぜっ!」

 だが、自身は今、女のルックスだった。

 一声も発しない、不気味な塊はハンマーを振り下ろすように、逃げまどう柚宇とおぶられたけいを2秒後ずつ、圧死させるためのように、空から押し寄せた。

 ぐぁん。ぐぁん。  

 振り返ると、一回に、何十羽ものミミズクが、骨をばきばきに折り、コンクリートへの衝撃で一回ずつ死んでいっている。

 狂っている。

 柚宇は叫んだ。

「こら、イルカぁ!!!!!!こいつらは、関係ねえだろうが、てめえ向かってこいよォ!」

 イルカは、ゆっくりと、大音量で答えた。

「くっは。人間と同じことをしてるマデダ」

 けいは、む、とした。

 深海魚ドームの前に来ると、柚宇は、札を一枚手から放し、言葉を発した。

「がすとぅ!!!!」

 この前、けいに言わせた言葉である。その直前に、柚宇は時代跨ぎだと、説明した。覆いかぶさる、黒い影を拒む、巨大な、葉っぱが2枚出現した。二枚は、大群を飲み込み、なんと喰ったように、手品のように、何万というコミミズクは、葉っぱの中に消えてしまった。

「まだだ」

 柚宇は、空を見た。ドームの入り口のガラスに反射した映像を、けいも、また見た。もう一つの群れが近付いている。

 柚宇は、呟いた。

「ニシアメリカフクロウ、、、。ち、一体、いつから呼びよせてやがった」

 柚宇ご名答の、そのフクロウの大群はやはり、何万という数をたたえている。間もなく、ドームに到着する。

「あーあ、あーあ」

 柚宇は、ため息なのか、楽しんでいるのか、わからない声を連続で上げた。

「けい!」

「にゃん?」

「おい、甘えんじゃねえ、殺すぞ!人間」

「うえんっ!いや、普通にふつうの女子高生なんすけど、わたし!」

「違うな、お前には力がある。ちょっと、おれだけじゃ、やっぱきついわ、この時代<チキュウガエシ>じゃ、惑星巫天はなあ」

 ドーム内で、イスを壊す程に、蹴り倒し、室内に入って来た、数百羽のフクロウに破片を浴びせる。

「力、出せねえんだよぅ!」

 札をもう一枚取りだした。がぱ、と開ける一つの葉。

「く、間に合わ」

 どん、とけいを投げ捨てた。

 ぐあん。

 みし。

 けいが倒れ込みながら、言った。

「あ!」

 キョンシーは、尾びれをあらぬ方向に曲げ、血まみれで横たわっていた。

「取り乱すなよ!?おれらは、死なねえ、ごっふ」

 吐血を前にして、取り乱すな、というのに、無理がある。けいは、泣き始めた。

「ああ、、、!あ、!」

 大群が近付いている。柚宇は、起き上がろうとするが、「ち、なんだこのもろい念悦はっ!」自身の心<姿>の非力さを嘆いているようだった。辺りには、無残に転がる、フクロウの死体。何十匹。そして、新たに入ってくる、何百匹。柚宇は、弱音を吐いた。

「、、、けい、逃げろ!おれは死なねえが、お前は」

「ひい、ひい」

 失禁した上に、近付いてくる群れには焦点を合わせず、転がったフクロウに対して、嗚咽とも慟哭とも、取れぬ呻き声を上げる、けい。

「ぐ、ひい。ひい」

 目がいってしまっている。

 キョンシーは叫んだ。

「けい!!!!!」

 けいは、振り返った。

「兎瓦けい!!マウヅの言った言葉を思い出せ!! 奴はお前に力を託したはずだ」

「ひい」

 フクロウの死体を見ることをやめないけいの頭上で、狙いを定めた、フクロウの塊ハンマーが、ふりかぶった。あれをもらったら、脳髄が飛び出る。生身の人間である。

「あひ ひい」

 そのとき、声がした。


 ピンチのときは


 けいは我に返った。

「S-2(えすにい)」

 黒い塊は、兎瓦けいまで、あと2m。速さ、およそ200km。

「Suntwice(サントヮイス)」

 がァん。

 外からドームを見ていた、Yuは、次の準備に取りかかろうとしていた。というか、逃げた。フクロウたちに、自分の体を掴ませ、恐ろしい程潔く、太平洋に向かって、帰還したのである。

 -

 木村優美は、眞弥に呟いた。「ちょっと座って」

 眞弥は、冷蔵庫から、体を元の体勢に返すと、不思議そうな顔をして、優美に近付いた。

 優美は笑っている。本当に、惚れ惚れするほどかわいい顔だな、と眞弥は思った。

 優美は、顔を変えずに、張り紙を指差した。

 <殺人禁止>である。

 ぱん

 眞弥は、自分の頬を、そこに手を置いた。優美は、眞弥を殴った手を収めると、立った。

「反省してるなら、これから作るわたしの手料理食べていいから」と言った。

 それに対して、眞弥は意外にも泣かなかった。

「もう、しません」と言った。

 -

 ばらばらに横たわる、フクロウの何百羽もの死体に埋もれた、ドーム内。全員、死んでいる。引き裂かれ、喰い破られ、吐き捨てられた、まるで、獰猛なプレデターに大量に食い散らかされたようであった。

 サメが三匹宙に浮いていた。けいは、何も言わず、キョンシーの手を優しく握っている。脈を測った。確かに、脈は打っていた。ぽこん、と殴る柚宇。

「死なねえつってんだろが、けい!くそバカ!」

「あ、そっか、あはは、は」

 疲れ切った、顔でサメを見る、けい。

「あれ、あたしが呼んだんけ?」

「そうだ」

「まじで? このフクロウ全員それじゃあ、あたしがやっつけたんだな?はっは」

「そうだ。よくやった」

「なんか、騙されてる気がして、なんねえよ」

「なんにしても、お前に死なれたら、おれがマウヅに喰い殺されるぜ、よかった、よかった」

「マシンガンは、あたし死んでも気にしない、と思う」

 ドームを出た、けいは、ばた、と倒れた。

 まったく散々な一日であった。

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