マシンガンと女の子(名前はけい)4
目的地に着いた。柚宇とけいは、「絶対カップル的な空気は出させねえからな」というけいの、要求の元、ある程度離れて行動することになった。
「いやおかしいだろ!てめえに興味ねえよ!おれはロリコンじゃねえっ」
「あらま、あれだけ大胆にヒトの至る所を、触ってといて、男っつうのは、汚ねえ上にちっちぇえなあ~っ」
「お前!大声で言うんじゃねえ!しかも、おれが好きコノんでお前に触るか、ばか」
「う、ひどい!遊びだったのね!」
「そうだよ、メガネ!」
「うっせえし!今回、初メガネだっつうのにっ」
「だからどうしたよ、おい、着いたぞ。意味が解らない間にな」
けいは、ため息をついた。
「わあ、懐かしいって、、、。おい、柚宇。あれ」
「うん?」
なんということだろう。
<本日閉館>
「なにいい!ちゃんとネットで調べて今日は、ちゃんとオープンだって、あれ!」
「、、、」
けいは、道路わきで、まさに無能の部下を見るような、目で柚宇を見た。抗う柚宇。
-
反蛇あさりは、今、浜辺にいた。坂口と桂が、いっしょに時間を過ごした、あの大洗の海岸である。そばに、木村優美は居なかった。反蛇は、声を上げた。
「出てきなさい。さとざくら」
一瞬あとに、静かな波間から、ワカメが現れた。しばらく波に弄ばれた後、しぱん、と黒い影に取って代わった。オスのシャチの頭部である。 白い卵型の、アイパッチ(目の後ろの模様)は、かなり乱雑を極めた形状だ。おそらく、どの海域のシャチにも当てはまらない、異常な遺伝子を抱えている。口を太陽を、丸のみにするような、方向で、あんぐり開けた。
「、、、」
小さい音量で、反蛇は何かをしゃべりはじめた。
「GOD,, taste this scar allWHAT SUPPOSED TO break my whole meaning of living down.. Just to stare, just to watch , just to observe how the world be collapsed and to put some sort of end to it.... Come eat me alive, Orcinus orca, my CHILDREN....」
最後に反蛇は、<子供たち>と、そこだけは日本語で言い放った。眞弥の声に比べると、本当に静かな声量だった。動かないシャチ。口に歯は一本も並んでおらず、マシンガンを傷つけたその術は、未だベールに包まれていた。
-
「腑に落ちねえな。なんで今日、休みなんだ」
空き缶を蹴り上げた、浴衣姿の青年は、ちらちらとけいの表情を観察する。ここは、水族館から、少し歩いた、カフェである。聞いたこともない、やたら安い飲料が並ぶ、手頃な場所であった。
「あーあ。何しに来たんだべ。サメに、小便ちびるくらい驚かされるわ、女装趣味に体触られるわ、、、」
「うるっせえぞ。しつけえ、イシアガン」「なんだよ、カンスマーズ」
「はは!慣れてきたじゃねえか、こっち側に!けい」
「うっせえ、触んな。花男」
コンと、プラスチックのカップを、5m先のゴミ箱に入れた、セクハラ女装花男は、立ち上がった。
「やっぱ、おかしいな。おれちょっと見て来るわ」
「どうぞ。いってらっしゃい。あたしはもう、帰るから」
「帰んねえよ!お前も来るんだよ」
「入れねえじゃねえかよ」
「、、、」
考える、柚宇。
「それもそうか」
-
「、、、」
木村優美は、一人で絵を描いていた。場所は、眞弥の部屋である。ごじょごじょと、洗い物をする眞弥。なんで、いつも彼女は、食器を洗っているのだろうか。木村優美は、手に持ったスケッチブックを掲げた。
絵の中には、神岡眞弥とワカメをぶら下げたおかしなシャチが戯れていた。とても、仲が良さそうである。木村はとなりに、タイトルを添えた。
<魔王と地球様>
-
「、、、なあ、、、なあって、花男」
暗くて何も見えない。
「なあって」
心配の極みのような、弱音を上げるのは、認識しづらいが、けいの声である。柚宇が、やっとのことで反応する。
「あ?」
「なんでもない」
「言われた通りにしろよ?」
「あい、、、」
「お前ならできる」
「あい、、、」
「お前、なら、できる」
「あい、、、」
2人のいる場所はというと、もう水族館の中である。係員の注意をかいくぐり、館内に侵入したのだ。ここは、特に暗い部分が、濃い、深海魚コーナーである。
「もう一度言うぞ、けい。侵入はできたが、この調子じゃいつかはバレる。あのシャチに辿り着く前に、な」
「あい、、、」
「そこでだ。お前が!言うんだよ!すいません、どうしても!どうしても今日、あのシャチ見たいんです、と! あたし、明日病気で死ぬんですと。だいじょうぶだ。お前の、白い肌なら、いける!その外で遊んでない感なら、きっと。」
「うっせえし!ハナオ!!!!!ってか、そんなん無理に決まってっぺ!嗚呼!と、言いつつこんなとこまで、来ちまったし、あたしも!」
「もう引き返せねえぞ」
だが、水族館は、こんな馬鹿っぽい侵入者達に構うヒマはないほど、混乱の渦の中にいた。
破損だった。あらゆる展示用水槽の、ガラスが、割れて、ヒト型ほどの穴を開けていたのである。そのどれもが、屋外_。ベンチに座って、その水槽を眺めた時に、べこべこのガラス窓の塀が、横連なっている形なのだ。幸い、水かさより上の部分のため、亀裂は、もとい大きな破損_特大のもの_は、外に水を逃がし漏らす大惨事には、至っていない。しかし、こんな状態では、しばらくは、開館は無理、と言わざるを得ない。そんなことも知らない、柚宇とけいは、今走って、深海魚ドームを出た。曇り空になってきた、空を見つめたあと、そうした時間も惜しむように、ヒトがいないことをいいことに、談笑をしだした。
「、、、いねえじゃねえか。誰も。これ、見つからねえんちゃう?」
「それなら好都合だな。イシアガン」
「、、、」
「おい、Kansmarssって言えよ」
「言わねえし!ほら、また距離があたしに近い!どっか行け離れろ!」
「てめえをメスとも思っちゃいねえんだよ!おれだって好きなヒトくらい、いる!!!!!!!!」
「ほう」
しまった、と柚宇は思った。けいの顔の口角が、遊園地の遊覧船のように、持ちあがる。
「、、、(ふふふ)」
「何の笑いだよ!!」
「、、、」
べつに、という顔をして、けいは、柚宇を無視した。笑ったままである。
-
坂口浄介は、一人家路についていた。さっきから、一つのことで、頭がいっぱいだ。玄関から、中に上がる。ただいま、と母親に告げ、二階に上がる。自分の部屋に入る。カーテンを閉める。ステレオをONにし、ラジオを聴く。音量を好みに合わせる。取っておいた、スニッカーズを引き出しから、出す。小声で、そうだ、と言い、<世界の神々>を持つ。ゴミ箱に入れる。せえせえとした顔で、ラジオのチャンネルを変える。福山雅治の声を認識すると、そこにチューニングを合わせる。雑誌を手に取る。ぺらぺらめくり、アクセサリーのところで、赤ペンによってチェックを入れる。電車の時刻表を見る。
「10時39分、10時39分」
電話を手に取る。ディスプレイに奈良っちょ、と出る。
「あ、もしもし!奈良?ありがとう、今日退院したから、うん、、、うんあはははっはそうそう!若い医者だったよな、けっこう可愛かったし、うん、、、うん、まじで!おれじゃあ、今度行ってみるわ!ああ、たぶん、たこ焼き好きだと思う。ああ、奈良!?」
間_
「おれ、彼女できたから!うん、はははは、おう、じゃあ今度けいちゃんと4人で、うん!あ!?ああ、もうおれピンピン、この通りって見えねえか?ははは、あん?ああーラジオラジオ。うん、今家。うん」
目の下のクマは、消えていた。
-
「なんだべか、これ、、、」
「なんだろな」
バキバキであった。バキバキである。 「バキバキだな」
ドルフィンスタジアムにて、2人は、恐ろしいものを目撃していた。水槽の破損、崩壊である。けいは、柚宇を見た。
「なあ。いくらなんでもおかしいべ。これも、そうだけど。誰も本当に誰も飼育員も、売店もいないっつうのは、、、」
そのとき。
キィ - ー - - -ン。
甲高い声が近付いてくるのが解る。方向は、どうやら、「見て、花男!!」「?」目の前の、イルカの水槽の中からである。と、発信源をその正体を割ろうと、体をのけ反ろうとした、その時。一頭のイルカが浮んだ。フレンドリーな、画だった。けいは、息を吐いた。
「イルカけ」
0.5秒後、けいの腰を掴んだ、浴衣の青年は、5mは横に飛び退いた。と、同時に例のキョンシー人魚になっていた。背丈は、けいほどである。
けいは、驚いた。
_。
べつに、イルカが浮いてきただけだべ? 「、、、」
現在、女の姿の柚宇は、やはり女の声で呟いた。 けいは、目を丸くしている。
_。
徐々に、
_。
徐々に。
_。
さっき立っていた場所が、無くなり始める。無くなり始める、この形容は、つまり階段だった場所が、平坦になるという意味である。コンクリートが、空気に還って行っていた。 声がする。
「惑星巫天<水素>に間違いはないか?」
イルカが発した声かは、わからなかった。
けいは、ついさっき聴き取れなかった柚宇の言葉を聞き返す。柚宇は答えた。
「狙いはお前だ、兎瓦」
「へ!?なんであたし??」
声が重圧を増した。
「惑星巫天<水素>三人の月の神の内の一人、アサリユウに間違いはないか?」
「、、、。そうだっつったら?」
キョンシーは、帽子を深く折った。中に入っていたのは、3枚のお札である。
「質問に答えろ。お前は、惑星巫天<水素>三人の月の神の内の一人、阿修羅アサリユミトでも、あるか?」
でも、あるとはどういうことか、とけいは思った。
柚宇は、答えた。満足の様子だった。自分に対して、正しい定義を待っていたらしい。
「そうだ。イルカ。久しぶりだな」
今、音とともに、完全に水槽が崩壊した。
その海豚<イルカ>、意識に備えし、知性の限界を習得した、無慈悲の悪魔、名を求喰柚宇と同じ音、Yuと、いう。
キョンシーは、けいをおぶり、尾びれを中空で回転させ、叫んだ。
「ジェットコースターは好きか!!!!イシアガン!!!」
けいは、答えた。
「はい、す、す!」
言えず終まいだった。
今、黒煙のようなものが、イルカの背びれから、立っている。この世の終わりのように、愛らしい口からは、飼育員の頭皮らしきものが、赤黒い血とともに、見えていた。キョンシーは、けいの目を手でふさいだ。
-
反蛇求喰は、呟いた。
「いいこ」
喋り口調で、独り言を繰り返す。
「地球様。さとざくらは元の時代<アシュラゴロシ>に帰られました。ええ。相変わらず、ちゃんと言えば、わかってくれたわ。ええ。ふふ。ええ。そう、抹茶味のシュークリームが一番。ええ」
反蛇求喰は、遠い地にいる誰かと交信しているようだった。
-
水族館では、異変が起こっていた。今、異変の正体をお知らせする。
完全に崩壊した水槽の中、イルカは浮いたままである。次第に減っていく水かさ。このイルカは自分が死ぬのを待っているようにも見える。
柚宇は、空がやたら暗くなってきたのに気付いた。
「来たか。ち。やっぱちびるほど、怖えな。こいつら、相手にすんの、、、」
もう一言加えた。
「この時代じゃあ」
「あ!?」
おぶられたけいは、上空の雲を指差した。
信じられなかった。信じられなかったが、信じるしか、なかった。
ぺ、とイルカは、かわいらしい瞳で、口にあったものを吐いた。約一名の頭皮、別の人間の足親指、もう一つは、心臓に見えた。
ばさ さ。
けいは、吐き気がした。イルカの口の中身ではなく、上空の正体についてである。
おそらく、万。
何万羽もの、鳥類が巨大な雲のように、ドルフィンスタジアム真上を陣取っている。
ばさ、さ。
けいは呟いた。
「だめだ、すごく、うぷ、きもち、、、」
げ え。キョンシーの背中で、けいは嘔吐してしまった。もろに被ったのに、キョンシー柚宇は、気にも留めず、上空ではなく、イルカを見ている。
「きゅう う うん」
かわいらしい声を上げたイルカは、水の中に入った。
その時である。
合計何トンも、あろうかという鳥の群れが、キョンシーとけいに、落ちるように向かってきたのである。
「ひゃっはあ!」
跳ねるように、けいをおぶった柚宇は、器用に、スタジアムの階段を駆け下りた。
鳥の正体が明らかになった。すべて同じ種類であった。わずか、数十センチの、コミミズクと言われる種類である。
けいは、泣きじゃくっている。赤ん坊のように、なす術がないといった感じだ。対する柚宇は、アドレナリンが止まらない様子である。
-
かやはレノンに聞いた。
「ねえ、レノン、さとざくらが来てるってことは、さ」
「おう」
少年は今、自分の着ぐるみを縫い直していた。相当、痛んでいたのだろうか。
「イルカたちも追ってくるかな?」
レノンは答えた。
「ああ、、、ああ」
「ねえ、ちょっと聞いてる?」
レノンは、興味なさ気だった。
少年にとって恐れるに足る、対象ではなかったらしい。
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