マシンガンと女の子(名前はけい)3

「な~んだがな~」

 けいは、間の抜けた声を、出した。いろいろ、思い出していた。

「柚宇」

 カエルは返事をする。

「なんだ?」

 質問が、押し寄せて来る。 「う~ん、あんさ」

「なんだ?」

 唸ったまま動かなくなる、けい。はっと顔を上げ、言った。

「、、、。笑うなよ?幽霊っているん?あ、やっぱいいや。忘れて、花男」

 カエルは応えた。

「今、そこの最後、花男入れる必要あったカ?」

 間を置いて、カエルは男になった。

 「わ!!!もうぅ!!!相変わらず、殺す気かよ!あたしお前らと居ると、まじでびっくりしすぎて、白髪になりそうだっぺよっっ」

 真顔の柚宇は、高そうな浴衣をわし、と掴み胸元を開け、中から何かを取りだした。

「?なんなん?」

 突然、隣りの席を陣取る、青年に疑いの目を向ける、けい。

「質問なら、流してくれて構わねえよ?」

「いや、幽霊だろ?いるぜ?丁度借りてきてたんだよな、これ」

 出したものは、貝である。

「?」

 貝を覗きこもうと、すり、ともたれかかる恰好になったけいの、胸を触る柚宇。当然の如く、破裂音がそのあとを追った。柚宇の頬は、腫れあがった。

「なにすんだべ!女装趣味!」

「肩当たっただけだろ、自意識過剰。あ、これなおれのほほ。いわば、こりゃホオアカだな、くっく。赤いから」

「?は?馬鹿なん?何言ってんの?」

 窓際へ、避難したけいは、柚宇に思いつく限りの罵声を放とうとした。が、その時_。柚宇は一言、付け加えた。

「これがホオジロだ」

 ホオジロザメが、けいの隣りにいた。

 「っギャアアアアアアアアアアああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ、、、、!!!!!」

 辺りが騒然となる。そこまで混んでなかったのが、不幸中の幸いである。立ち上がって、けいの席を覗く人が、後ろの方で、後を絶えない。なんだ、何が起こった。

「うるっせえよお前!襲うぞ」

「っきゃあああぎゃあああああサメが、窓に窓がああああああ」

 発狂していた。むしろ、お前が怖いわ、柚宇は舌打ちをした。今、体長6mはあろうかというホオジロザメが、肘を窓にかけるような恰好で、この電車に、もたれかかったままの状態で、けいの30cm先にその凶暴な歯を、光らせていたのだ。感情のうかがえない真っ黒い、機能だけを備えたような、瞳。大きな口。美しい流線。深海の恐ろしさそのものを体現したような、古代からの捕食の化身、ホオジロザメがそこに「居た」のである。

「よう、けい。そいつ。そのサメ。それ<居る>わけじゃねえぞ。今そこにな」

「ぎゃああ「聞け馬鹿!!!!」

 ハンカチをけいの口に、当て耳の後ろで縛り、柚宇は、けいを背中から抱え込む形になった。無理矢理でこを掴み、サメに焦点を合わせさせる。

「くそ馬鹿野郎!騒ぎにすんじゃねえ」

 ばたばた、と手足を動かす、兎瓦けい。今回は本格的に、失神寸前まで意識を遠のかせてしまった。

 サメは「元気か?惑星巫天」と、言った。けいは、もれる、と思った。

 -

 反蛇求喰と木村優美は、そろってレストランにいた。食事をしていた。食事をするような悠長な雰囲気じゃなかったのは、気のせいだったろうか。優美は、言った。

「はい。はい」

 なんと、相手の反蛇は、一言もしゃべっていないのに、こくこくと彼女の前で、頷いている。それを見て、笑っている反蛇。よく見ると、反蛇の唇は動いていた。とても、ヒトの聴き取れるレベルではない音量で、この女は、優美に語りかけていた、というのは推測の域を出ないであろうか。

 -

「あーーーーほんとにびっくりしたな、もうっ」

 けいは、さっきまで恐れていたホオジロザメの電車の窓に入り込んだ、ヒレの先端をつまみながら、眉間にしわを寄せていた。柚宇は、貝をじろじろ見ながら、独り言を言っている。

「、、、もう一匹いんだけどな。おーい、、、。トラジっ」

 ぼん、とクラシックな煙を吹きだし、その中から現れたのは、今度はアザラシである。

「わあ!」

 即座に、ホオジロの目にガンをつける、けい。

「サメ! 食っちゃだめだぞっ」

 サメは答えた。甲高い声である。マシンガンが嫌いそうな、音色である。

「おみゃーよ」

 サメは、けいの肩を叩いた。

「おりゃ、アザラシは食わねえんだよ!死んでるし」

 ちょこん。それはそれは。

「うっきゃあ」

 けいは、目を輝かせた。サメの話を半ば、無視し、アザラシに向かって、お姫様のような声を上げた。お姫様のような声とは、何の事だか、わからないが_。

「かっわいいいいいいいっ!こういうのだっぺよ、柚宇!やっぱ動物がしゃべるっつったらこういう素直にかわいいものが出てくるのが、普通だっぺよ!あんな、<やってきたのだよ、けい>(マシンガンの声真似)みたいなんじゃなくてよお!!」

 体長すんでのところで、2mに及ばないくらいの、けいより大きなアザラシは、ちょこんとけいの目の前の席に人間の恰好よろしく、座っていた。額には、虎のようなしま模様が走っている。十字傷のようだ。

「、、、」

 見つめる、けい。柚宇は、何かに満足して、けいの表情を観察し、説明させてもらうのを、待っている。アザラシは、特に何もしゃべらなかった。特徴は、かわいい、以外見当たりそうにない。表皮は黄色に近い白であった。

「かわいいいな、おめえ。ちゅっしていいか。ちゅ」

 アザラシのでこにキスをする、けい。サメと同じく、触れてしまう。

「なあ、柚宇。幽霊ちゅうんか、これ。幽霊って見えるけど、触れないもんじゃねんけ?」

 柚宇は、あきれて答えた。

「てめえらの定義なんて知るかよ。こっちの常識で、お前らが幽霊だと思ってるものを、それに近いものを呼んだだけだ。いろんなもの、混同してるだろうが、お前ら。さて」

 待ってましたとばかりの、柚宇。

「説明料は、高くつくぜ?けいちゃん」

 けいちゃんと呼ばれて、なんか恥ずかしくなったのは初めてだった。

 -

 けい達の目的地では、ある異変が起こっていた。けい達の目的地とは、房総半島南にある水族館である。なんと_。

 騒がしい係員の声がする。

「あれだけ水の管理は、注意しとけっつったろうが、お前、、、!クビだ!」

 どうしたのだろう。誰かが、猛烈に叱られ、その前の水槽ではある動物が、水面で死んでいる。絶命しているとしか思えない。動いて、いなかった。

「バンドウイルカは、お前なあ!老若男女、水族館のシンボルなんだよ、おい!聞いてんのかよ!!それだけじゃねえぞっ!?ここまで芸を覚えさせるのに、一体どれだけの、、、!もう、いいよ!お前、もうくんな」

「一言だけいいっすか」

「なんだよ!?」

「おれ一週間来てなかったんすけど、休みとってて」

「、、、!?そ」

 怒りは止んだ。水槽の水面では、3頭のバンドウイルカ、1頭のオキゴンドウが絶命している。原因は定かではない。

 -

 柚宇は、得意気だ。

「いいか。小山の話思い出せよ。世界の、定理は、

 反発×重力×音=時間

 だ。だがな、この式とは、別に便利な公式が存在するんだよ。要するにこの三つそれぞれが、どうやって作られるかだ。はい、公式一個目!」

 ばん、とけいの眠そうなふとももを叩いた。

「っちゃあ」

 意味の解らない声を上げるけい。

「小山が説明したろ?まず、心つまり姿の作り方だっ。これは。

 魂×体=心

 だ、そうだったな?けい。これはそのまま

 反発×音=重力

 だ。この場合×は、音を必要とするということだ。リズム。小山が言ったな?リズムとは、三つあるタイプの音の中で、重力を司るものだ。意味はわからくて、いい。リズム=重力と思ってくれていいんだ。さて、いよいよだ。いわば、これは生物の作り方だな。いや、違う生物の姿の作り方だな。次、、!生物の意識の作り方、小山が言った魂だ、、、!おい、寝るな、兎瓦!お前のかわいい、と言ったアザラシの正体に近付いているぞ!」

 ぱんぱん、と頬を叩く柚宇。

「起きてっから、つううかおめえ、さっきからあたしんこと触り過ぎだっぺ!セクハラ女装花男!」

「説明を続けるぞ。ちなみに、今のは微妙に傷ついたぞ?「知るか」_んとだな、そうそう。魂だ。反発だ。反発の作り方はこうだ。

 重力×音=反発

 こうだ。いいか?お前らの意識、思考はこうやって作られてるんだ。いくぞ?思い出せよ? 小山が言ってくれたな。重力を司る物質は、うん? やっぱ言ってねえかもしれねえな。重力を司る物質は、水、水素、カルシウムだ。これのどれかを使って、音を司る以下3つ<塩素、鉄、マグネシウム>のうち一つと結合させるっと。この時、使われる音、それがメロディだ。反発=メロディだ。覚えとけ?戻るぞ?リズム=重力だ。そうだったな?」

「はい!」

「よし、最後だ、兎。最後の音は、ゲインだ。音量それから伴う音圧だ。式だ。

 反発×反発=音

 音は体だ。最後は、体の作り方ってわけだ。ここで使われるのが、ゲインってわけだ。

 反発=酸素、炭素、プロテイン

 このうち、どれかを二つ組み合わせることで、体<音>が生まれるんだ。まだ、終わらねえぞ?聞けよ?幽霊の正体だぞ?」

「はいはい!ひぃ」

「反発だ。意識を司る物質だけの、存在なんだ。心も体もねえ。魂だけって言ったら、すんなりくるだろ?」

「でも、じゃあなんで触れるん?」

「あ!?酸素も炭素もプロテインも触れるだろうが!」

「あ、間違えた。なんで、見れるん?心が姿なんだべ?」

「この中で、お前しか見えてないだろうが、兎瓦けい」

「え?」

「周りの客は、ホオジロザメを見て、元の睡眠や読書にもどれる、と思うか?そんなわけねえだろ。兎瓦けい」

「は、はい!」

「いい返事だ。いいか。お前は、すでに惑星守護色期巫天になりつつある」

「!?いや」

「いやって言うな。それが、これから会いにいくシャチの、お前への恩返しだったんだよ。はい、570円」

「、、、!ええ!」

 がたんごとん。

 電車は、家族連れや、サラリーマン、多くの人間を連れて山と海の間を駆け抜ける。ごく普通の、日常が流れていたはずである。乗客の一人、兎瓦けいの頭の中以外では。

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