マシンガンと女の子(名前はけい)2

 別に疲れていた、わけではなく、わけではないが、「う~ん」声を上げた。意味のあった発声ではない上に他者に対して、何らかの応答を求める態度、または意思表示ではなかった。なのに、けいは、出したあとで、猛烈に返事を求めてしまった。カエルは、さっきから静かなままだった。けいは、あのミニシャチに会いたくなっていた。

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 東京は、便利な街だ。煩わしさを、相殺するほどの、魅力が、それに溢れた街だと、認識する人は多くいる。しかし、ここにこの天下の大都市に、何の魅力も感じない、者がいた。電車を待ちながら、花束(おそらくカーネーション)を持った、惑星巫天、木村優美である。

<石神井公園、石神井公園>

 アナウンスがかかると、優美は、耳を大袈裟にふさいだ。しかし、表情は不快そうではない。手に、持つ花を見つめるのみだ。

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「月だ」

 カエルは、一度聞いた答えを口にした。けいは、怒った。

「その意味聞いてんだってぇ!あのお月様じゃねえべよ!あんた」

「あの月だ」

 カエルは、冗談を言っているトーンでは、なかった。ガタン、ガタンゴトン。

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 ちなつも、病室に来ていた。坂口は、幾分、健康を取り戻した顔で、高い声を上げた。ちなつの顔を確認するなり、「お前、そんなキャラだっけ!」と言った。ちなつは、義務的な顔で言った。

「なんだろ。古くからの付き合い、的な。馴れ初め的な」

「いいから、その手に持ってんの頂戴」

 ちなつは、はい、とスニッカーズを手渡した。

「心得てるな。おれの好物を」

 むしゃむしゃと食べ始める、浄介はもうだいぶ、いい様だった。ちなつは、ぼそり、と告げた。

「誰?」

 窓際では、一生懸命リンゴの皮をむく一人の女の子である。服装は、真っ黒で異質だし、花の生殖器のようなものが、頭のてっぺんから生えている。

「うん?今、誰って聞いたんですけど?」

 ちなつは、質問を繰り返した。風に弄ばれるカーテンが、気持ち良さそうだった。今日は、快晴だった。こんな日は、水族館でも行ったら、さぞかし楽しいだろう、と思った浄介だった。

「ねえ、誰って」

 ちなつは、もう3度同じことを呟いた。

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 けいは、ぱしん、とカエルを叩いた。

「いて!」

「はっは」

 また、パシンと叩いた。

「こらァっ!調子に乗るなよ、イシアガンっ」

「はっは」

 傷だらけのマシンガンを思い出して、兎瓦けいは、また泣いていた。

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「彼女です」と言った。坂口浄介は、真面目な顔で、否定している様子はない。ちなつは、そうですか、という顔をするが、何も言わない。何か、何を言っても拒否されそうな拒むような声色で言われた為である。

「、、、」

 ちなつは、とりあえず、笑顔を向けた。窓際の、たった今、「彼女です、」と言った女の子に、である。坂口浄介は、<世界の神々>の、アリのページを思い出していた。

 言った。

「、、、そうだ」

 ちなつは、答えた。

「じゃあ、、、、、、、邪魔?あたし」

「いや、いてくれ」

 寝返りを打って、坂口は、野球漫画を手に取った。もらした。

「くっそ、三巻からしか、ねえよ」

 本当には、思ってない、言ってるだけの中身のない発言に聞こえた。窓際の女の子は、今、りんごを剥き直った。芸術品のように、綺麗な一品であった。

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 柚宇は、窓の向こうに広がる太平洋に、声を出した。

「っかあ!海は、変わらねえなあ、けい!まあ、おれらは<大磯>って呼んでんだが。あ、ちなみに陸は、<牧野>な」

「聞いてねえし」

 けいは、赤くなった目で、持ってきた小説を読み始めた。いきなり笑い始める、柚宇。

「くっくっく」

「気でもふれたんけ?あ、ここで女装始めんのは、勘弁して下さいね?」

 柚宇は、無視した。

「聞こえるぜえ、JETTOESどもの声がっ。こっから、74km沖に、今、4頭のイワシクジラがいるぜ。ひゃっは」

「ほんとかよ」

 ぱら、とめくろうとした本のページを戻して、けいはカエルに質問した。

「JETTOES(ジェトーズ)って、、、マシンガンか小山ちゃんが言ってたけど、重力のことなんだべ?あと、心」

「そうだ」

 カエルは、偉そうに答えた。

「音がお前ら、人類で、重力が奴ら、鯨類だ」

「もう一個の反発は?」

 カエルは偉そうなポーズを取ったまま、答えた。

「おれら、惑星守護色期巫天様だ。ちなみにおれの担当は「もう、いいや」

「小娘ぇ。」

 けいは、満足すると、小説を読みなおし始めた。実は30分前から、1ページも進んでないのであるが。

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 リンゴをむしゃむしゃと食べる浄介は、二人っきりになった病室で、居心地が悪そうだった。自分の膝に、肘で居座る女の子に対してである。

「そんな見られたら、食いづらいんすけど」

「うふふ」

 桂は、視線を固定したまま、なくなっていくリンゴを見ていた。少女は、無くなっていくものを見るのが、たまらなく好きだった。

 昨日、わずか20cmほどしか、なかったゆりの花は、窓際の花瓶で、今、2mほどに成長していた。もはや、「種類」を超えていた。

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 シャチと落ち合う約束を、していた木村優美は、池袋のマルイビルに来ていた。エスカレーターで、最上階のスタバへ向かう。品の良さそうだが、きつそうな目をした20代後半に見える女性と同じ、テーブルを囲んだ。

「お待たせ致しました。反発担当、反蛇求喰様」

「久しぶり。優美ちゃん」

 マシンガンの見かけは消え去り、その人物は、飲み物を優美に差し出した。オレンジジュースだった。

「飲んじゃいなよ」

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