マシンガンと女の子(名前はけい)

 マシンガンと女の子


 眞弥は、一人になった部屋で、片付け終わったことを、自分で褒めてやった。

「しかし困ったもんだな、あの月、、、。ほんとに」

 目は優しかったが、本気で困っている様子でもあった。

「、、、コンビニいこ」

 地球様は、コンビニがお気に召された様子である。牛乳の歌を完成させようとした。外は、しかし夜中の2時であった。まったく懲りていない。

-

 惑星守護色期巫天のカエルを、肩に乗せて、兎瓦けいは、今、電車に乗っていた。電車の表示には、「房総半島安房鴨川駅行き」と、あった。けいは、珍しく眼鏡をかけ、耳には、イヤホン、片手にアイポッドである。いくらでも時間なら、潰せるぜ、という意気込みが感じられた。カエルは、過ぎ去る景色に、とめどなく突っ込んだ。

「おい、あれ!あんなん危ないだろう!子供落ちたら、どうすんだ!」

 しかし、中には、けいにとっても、はっとさせられる意見もあった。めんどうくさいので、反応はしないが。

「兎!見ろよ、あの看板!あの色じゃダメだな!」

 けいは、うっとおしくなってきた。

「なあ、柚宇。寝るからさ、あたし。黙れ」

「もっと、控えめに言えねえのか、お前」

「(ぐぅう)」

「はや!」

 カエルはヒマになり、ぴょんとけいの胸の中に入った。のちに、この世で最も苦しい拷問処刑に会うことになる。しかし、同情をする者は誰もいなかった。

-

 坂口は病院に搬送された。

「わかった」と言ったきり、前のめりに倒れてしまったのである。奈良が、付き添った。この二人は、付き合えばいいのだと思う。医者は、疲れがたまっていたのでしょう、と言った。

「2,3日休めば良くなりますよ」

 その医者、頭のてっぺんから二本のピアノ線のようなものが、見え隠れしていた。ばたん、と閉められたドアを見て、その医者は、大声で、看護婦を呼んだ。

「もう、いったよ、レノン!」

「ふっふっふ」

 出てきたのは、ガチャピンである。看護婦には、どう多角的視点で見ても、見るのは難しかった。それができたら、ある意味哲学に到達している。

「なんか安っぽい悪者みたいに、なってるけど、うちら、、、」

 かやは、本気で心配そうだった。

「まあ」

 レノンは、腕を組んだ。丸いお腹が、邪魔そうだ。

「うまくいく」

「丸いお腹が、邪魔そうだよ?」

「うっせ。かや」

 診察室には、この2人以外の影は、見当たらない。

-

 暗い病室で、奈良が心配そうに見る。

「もうすぐお母さん、来てくれるってよ」

「そっか、ありがと」

 奈良は、深く息を吐いて、背もたれなしのイスに座った。

「お前さ」

 言いかけて、やめた。病人を責めても、しょうがない。奈良は、カレンダーを見た。

「夏だねえ」

 べつに、したかった話ではなかった。

-

 仁美は、考え過ぎた挙句、寝てしまった。スティーブは、それを見て、茶を飲む為の、お湯を今、沸かした。

「ねくた」

「がってんでい」

「お前、オス? メス?」

「桃!わたしらの間では、葡萄が男、桃が女なのであります」

「、、、あっそ」

 スティーブは、歯磨きしようとしてしまい、あ、今から茶飲むんだった、とこぼした。ふう、と息を吐く。

「女って難しいな」

「、、、スティーブ。いつか、あんたにもわかるさ」

「シャチに言われちまったな」

 スティーブは、悪そうな、笑顔を浮かべた。

「しっかしよ」

 どっか、と座布団に、座るスティーブ。そ、とタオルケットを、仁美に被せた。

「いつ終わるんだ?これまあ、悪くはねえけどさ。思ったより。すげえヒマだわ」

「だから、ヒマ潰ししてもらうんだって。なんか言ってよ」

「いや、何もいらねえわ。そういうことじゃない気がしてきた。わかんねえけど」

「モノなんていらない、と?」

「モノっつうか、なんだろ。触りたいもんとか、感じたいもんて、世の中あふれてたんだなあ、と思う。今になるとな。ま、実際帰ったら、当たり前になっちまうんだろうけど」

「合格」

 言ったねくたの声が、背後に移動した気がした。殺気がした。

「?」

 瞬時に、仁美のそばで構える。なかなかに男を見せてくれる。

 太陽が光った。さっきまで、いや、生まれた時から、あったものである。だが、スティーブは感じた。今、初めて、太陽は光った。声がした。

「惑星守護色期巫天_鉄の神_」

 スティーブは、防御を解いた。感じたのは、殺気じゃない、と気付いた。むしろ、抱擁のようなものだった。ただ、スケールのでかすぎるモノによって、の。ねくたが消えていた。仁美が眩しさに目を覚ました。

「おっとぅ」

 親父みたいな台詞だった。寝ぼけていた。スティーブは、ただ黙った。暗くなった_。瞬きをすると、2人の前に、一人の女性が立っていた。 彼女が、全ての惑星巫天の総指揮官_。

「よろしく。 スティーブ。 仁美ちゃん」

 名を、神岡浄介といった。

-

 特に、特筆すべきポイントはない、電車の中の風景で、ふと、その中に在るものから、連想させられるものが、あった。

 兎瓦けいは、言った。 

「、、、。今、初めて聞く気になったんだけど、、、。お前ら、何者なん?」

 エアコンディショナーを、見て呟いたのだった。アマガエルは、けいのスカートの中から出てきた。のちに、この世で最も苦しい拷問処刑に会うことになる。しかし、同情をする者は誰もいなかった。

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 張り紙は一つ、増えていた。<殺人禁止>の隣りである。<買い過ぎ禁止>と、あった。テーブルの上には、大量のシュークリームである。

「だって、いろんな味があったし」

 眞弥は、誰もいない部屋で、誰かに対して、許しを乞いた。

「地球様、おてんば買い過ぎ事件、と名付けよう」

 ポジティブ思考、と呼べるものかは、怪しかった。

-

 病室で、坂口浄介はうなされていた。隣りには、付き添いが、いた。

 奈良は、もう帰っている。母親も、大事には至らない、と聞くと、リンゴジュース、それからバナナの束をおいて、病院をあとに、している。

 非常に、変わった頭をした、一人の女の子だった。浄介の顔をじっと、見ている。にじみ出る、優しさに、加えて、浄介の指を握りしめる、その行動から、看護婦は、彼女さんなんだな、と思った。女の名を、桂と言った。この世に住む、すべての植物、炭素を中心に組まれた背骨を持つ脊椎動物達の命を、管理及び統括する存在である。目は、彼女の視界は、浄介の顔を収めたまま、ぶれる様子はない。

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