誰もが知るあの懐かしのメロディと歌声が読み手の心の中で流れ続ける作品。哀しみも切なさも、優しさも協調も狂おしさも、全てをないまぜにした感情がじっとりと過去の遺物となって朽ちていく。もしかするとそれが別れというものの功罪なのかもしれない。そして誰もが持つ心の瘡蓋をめくる痛みがこの作品に感じられる気がする。
東京駅を発車する新幹線のベル。お別れの時。突端まで駆け出し、行き止まり、感情の唇を噛み殺すように泣いたあの頃。春の薄紅色の花びらが名残惜しい想いを連れてくる物語です。特徴的な句点を排した文体。読点わずか六つを許した全文からは、詩文体を意識したのか、どこかほろりとなごり雪の歌が聞こえてきそうな雰囲気さえ感じます。思い出の曲には、その人の人生が詰まっている。別れの言葉はいらない。この曲を聞けば、あなたに会えるのだから。
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