第18話 戦いの後で

 竹内と菅野は、母船エクスプローラーの医務室にいた。点滴を打っているが二人とも軽傷で、医者には「一日寝てれば治るよ」と軽く言われた。ロボットを操作しての戦闘だ。怖い目にあって精神的な疲労感はあるものの、確かに肉体的な損傷は少ないのかもしれない。


 あの後、ボロボロの三号機で無事に探査船に戻り、惑星ウーレアーの軌道上にいた母船エクスプローラーに戻ることができたのだ。


「やぁ、キミたち、気分はどうかな」


 研究者の中村が医務室に入ってくる。


「はい、大丈夫です。菅野も問題ないようです」

「そうか、それはよかった」


 竹内には気になることがあった。もちろん、ドラゴンの卵のことだ。あれだけ、親ドラゴンに追い回されて、それでも頑張って持って帰ってきたのだ。


「――それで、卵、どうなりました?」

「ありがとう。無事だよ。これで研究を進めることが出来そうだ」

「ただ、本当にドラゴンの卵なのかどうかが、分からなかったんですが……」


 中村は嬉しそうに首を横に振る。


「あの卵は割れていたからね。中身を取り出して、今は培養器の中だよ。当然、その際に中身を見たわけだが――、ドラゴンだったよ」

「そうですか、それはよかったです」

「君たちのおかげだ、ありがとう」

「いえ、俺はただ命令に――」


 命令を出す陸自の幹部からすれば、ドラゴンの卵より、菅野にもっと戦わせるべきだったんだろうと思う。

 でも、そうじゃないと思い、竹内は小さく首を振る。


「そうですね、ドラゴンの肉片なんかじゃなく、卵を持ち帰ることができるなんて、研究が育ちそうで、夢やロマンがあるじゃないですか」


 中村は大きく笑う。


「そうだね。理解してくれて助かるよ。ただ、残念ながら、今回の調査は危険すぎるとして打ち切りが決まったんだ。だから、あの卵はこの研究の最後の希望になったよ」

「そうですか。なら、頑張って持って帰ったかいがありました」

「ありがとう。それから、キミも大丈夫かな」


 中村が菅野に向けて話しかける。


「はい。元気ですか? ピスタチオ」

「ん? ぴすたちお、とは?」

「あの子の名前です。ぱかっと割れて、ちょっと緑っぽいのもあるじゃないですか」

「ああ、名前か。生まれる前だからね、まだ付けてなかったな。ピスタチオか……、長いから、ピスにしようか。どうかな?」

「はい。ピス、よろしくお願いします」

「ああ、分かったよ。ピスはまだ身体が完全にはできていないようだ。宇宙船の研究室じゃ、やれることは限られているからね。

 キミたちだけじゃなく、ピスもしばらく養生が必要だな。それじゃ、これで失礼するよ」


 そう言って、中村は笑顔で去っていった。


 ◇◆◇◆


 その後、竹内は菅野と食堂で飯を食った。

 軌道上は無重力状態。

 定められた食事時間外に食べられるものと言えば、チューブで食べるディストピア飯ぐらいだ。メシの文句を言いつつ、無駄話をした。でも、激しい戦場から帰ってくれば、この何気ないありがたさが身に染みる。

 相変わらず、菅野の話にはついて行けない部分もあるが、そんなところを含め、なんだか落ち着くなと感じてしまう。こんな落ち着く時間が、もっと続いてくれたなら――。


「なぁ、菅野」

「ん?」


 竹内は言おうとして止めた。

 でも、なんだか菅野は嬉しそうだ。


「うふふ、分かってますよ、竹内さん」

「何がだよ」

「内緒」


 菅野はふわりと浮かびながら、竹内のものを去って行く。

 気が付くと、竹内は菅野を追いかけていた。


                                 おわり

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プロジェクト・ドラゴンスレイヤー  ~国立研究開発法人 宇宙資源調査・開発機構の調査ファイル~ 三原 耀 @mihairu1

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