第13話 退却、その後に。 その2
ズズン――、ズズン――。
二機のサルトゥスが、洞窟の奥へと向かう。
『竹内さん、ダンジョン探索、ドキドキしませんか?』
相変わらずの能天気に、竹内は困ってしまう。
「ダンジョンっても、これ、火山洞窟ってヤツらしいぞ。マグマが流れて行った跡らしい」
『洞窟でも、ダンジョンでも、そこら辺はどうでもいいです』
「現実に引き戻してしまって申し訳ないが、つまりだ、別に骨のモンスターが出るとか、お宝が出るとか、そういうのはないってことだぞ」
『何を言ってるですか。長い年月と、その怨念と、その他、なんやかんやで、モンスターがポップアップするんですよ』
「何のゲームやりすぎたら、そういう脳みその構造になるんだよ」
ふふふ、と笑いながら、嬉しそうに菅野は四号機を進める。
『私にも、私なりの考えがあるんです。ここ、結構大きなダンジョンなんで、期待できますよ』
付き合うと言った以上、仕方がない。
竹内は菅野の後ろをついて行くことにした。
◇◆◇◆
竹内はサルトゥスを操りながら、前を行く菅野の操る四号機の後ろ姿を見る。
心なしか、スキップをしているようにすら見える。
そんな操作は無かったはず。
だが、事実、竹内の前を歩くサルトゥスは、なんだか違う。
竹内がサルトゥスにさせているような『歩く』動作とは異なるように見えるのだ。
もっとも、戦闘員の菅野は神経回路と機体を接続させているはずだ。そうなれば、手動操作に頼っている竹内よりも、サルトゥスの制御プログラムが『総括コマンド』として認識しているコマンドセットの数より多いのかもしれない。ひょっとすると、入力方法の癖から、コマンドセットを創るなんてこともあるのだろうか。
「対ドラゴン戦」の四号機はすごかった。
いや、マジで嫉妬する。
ロボットってのは、あんな動きができるんだ。
精鋭部隊と言われる連中の演習も数多く見てきた。
「上手いな」と思われるヤツもたくさんいた。
だが、菅野は規格外だ。
あの動き。考えてできることじゃない。
神戸重工のサルトゥスはもちろん、四菱重工の高性能主力ロボット「タイタン4」を使っても、あんなの無理だ。
コイツ、「天才」なのかもしれない。
『どうしたんですか、竹内さん。さっきから無口ですね?』
「は? 何でもねぇよ」
『あ、分かりました。怖いんでしょ? 幽霊とか、そういうの、苦手なタイプですね?』
「ちげぇーよ。なら、前、歩こうか?」
『ほほう、やってもらおうじゃないですか』
「バカにしてやがるな! いいよ、やってやるよ!」
竹内は菅野の操る四号機の前を歩くことになった。
勢いで言ってみたものの、やはり、前を歩くのは緊張する。
人為的なトラップがないことは、分かる。
だが、自然現象として足元や天井が崩れるというのは、ありうる話だ。
なんと言っても、巨体が2体、ドスン、ドスンと、歩いて行くわけだから。
そう思うと、根性の座っていない整備士である竹内は、ちょっとビビってしまう。
突然、地面が揺れる。
ガラガラと天井から石が落ちてくる。
「お、おい、何だよ」
『地震みたいですね。怖いんですね? 幽霊より、雷とか、自然現象の方が怖いんですか?』
「怖くなんかねぇって。ここは火山地帯なんだ。火山の1つや2つ、いつ噴火したっておかしくねぇだろう。そ、そんなことで、ビビるわけねぇって」
そうは言いつつ、竹内はかなりビビっていた。
『竹内さん、どうしたんですか? もうちょっと速く歩きましょうよ』
「押すなって! うるせーな! これでいいんだよ!」
『あ、ビビってますね? いいですよ、私は前の方が楽しいですから』
バカにされてると思うと、竹内はちょっと腹が立った。
そういうことなら、菅野のやり方に乗ってやることにする。
「なんやかんやで、魔物が出るか分からないだろ。だったら、何も考えずに進むのはバカだよ」
そして、竹内は意地でも前は譲らないと心に誓う。
『無理しなくていいですよ、代わりますから』
菅野は竹内の三号機の前に行こうとする。
だが、竹内は断固拒否。
前に行こうと四号機を阻止する。
「心配するなって。俺たちみたいな初級のダンジョン攻略者に襲ってくるヤツは……、ほら、あれだろう……、緑色で、小さくて……」
『あ! 分かった! ヨー〇ですね!』
「ん? 〇ーダ? そうだっけか? ゴ……、ゴ、何とかってヤツじゃなかったか?」
『竹内さん、分かってますね! スペースオペラの古典ですね! 緑色で、小さくて頼りないと思わせつつ、めちゃくちゃ素早く動いたとき、ビックリしちゃいました! そうですね、アレが出てくるとなったら、慎重に行かざるをえないですね!』
なんだろう。想定していたのと違う反応に、竹内は困惑する。
だが、これぐらいで負けていたのではいけない。
「ま、なんと言っても、一つの異文化交流だからな、言葉も知らないのに前のめりなのはよくない。紳士的に振る舞わなきゃな」
『竹内さん、「紳士」なんですか?』
「し、紳士だよ。なんだよ、悪いか?」
『いえ、私、実は紳士の方、大好きです』
「そ、そうか、それはよかった」
『はい! うれしいです! へぇ、そうなんだ、竹内さんは紳士なんだー』
想定以上の元気な返事が、竹内に返ってくる。
菅野の反応に、絶対に意思疎通ができてないとの確信が竹内にはある。
だが、よくわからないので、そのままにすることとした。
「とにかくだ、異文化交流と言うことは、言語の問題がある。前のめりでは警戒心を持たれてしまうからな」
『はい、はい、はい、はい! その辺、心得ておりますよ!』
「え? 何が?」と訊きたくなるが、話を振った張本人である以上、竹内は当然のこととして受け止める。
「本当に?」
『はい。〇◎×▽§Ы、∴ヽ¦>!』
「は?」
『だから、〇◎×▽§Ы、∴ヽ¦>!』
『いや、あの……』
『だったら、●▽■◇‡、℃£☆★』
「…………」
『え? 違うんですか? あれ? 竹内さん、異世界語は、ダメな方なんですね?』
「んー、苦手と言うか、まあ、得意分野ではないので……、そこら辺は、菅野に任せることにするよ」
『そうなんですね! 認められたようで、うれしいです!』
「お前にはついて行けない」とは、竹内の口からは言えない。
やはり、天才と言うのは底知れないと竹内は思った。いろんな意味で。
『でも、なんか、うれしいです! ブロッコリーの整備をしていたときに、なんとなく感じてましたけど、なんだか、竹内さんとは「性癖」が合いそうで、何て言えばいいのかな……、その……、好きです!』
「はぁ?」
天才の脳みそに、上手く竹内の脳があわせられない。
なのに、急に竹内の頭に「好き」って言葉が巡る。
何をどう頑張っても、今の現実を竹内は理解できないでいた。
『でも、やっぱり、私が前を歩きます!』
菅野は踊るように四号機を操ると、三号機の脇をするりと抜けて前に立つ。
「じゃ、私の後についてきてください!」
菅野の操るサルトゥスは弾むように歩き出し、ダンジョン探索を始めてしまった。
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