第12話 退却、その後に。 その1

 竹内は洞窟の中にいた。


 あの後、当初の作戦どおり、小隊は散開。

 竹内もその場を離れた。

 付近をいくつか回った中で、一番大きい洞窟に入ることとしたのだ。


 ドラゴンは小隊長の井上の後を追った。

 最初に注意を引いてくれたために、ドラゴンが後を追ったのだ。


 二号機と四号機がどうなったについて、竹内にはわからない。

 これが、小隊長の命令だからだ。


 だが、ミッションは成功だった。

 一応、探査船へのドラゴンの行動を阻止したからだ。


「クソッ!」


 竹内が叫ぶ。

 しかし、実質的な敗北だ。


 竹内は、どうすればドラゴンに勝てたのだろうかと考えてみる。

 75ミリの機関銃では無理だ。

 あれでは鱗の装甲を突破できない。

 竹内がサルトゥスに担がせてきたスティンガー・Rも追尾しないんじゃダメ。

 そもそも、スティンガー・Rの爆薬が鱗に通用しない可能性が高い。

 もちろん、サルトゥスの肉弾戦でも無理だろう。

 工業用のハイパワーロボットだが、菅野の四号機が高所から突き落として倒せないんじゃ、とてもじゃないが、期待薄と言わざるをえない。


 そうなると、探査船プローブと共に降り立った装備では、そもそも無理ゲーだったわけだ。


「もう、帰りてぇなぁ……」


 ドラゴンを倒すということも無理。

「ドラゴンの羽」だけでも、という研究者の期待にもこたえられない。


 そんな気持ちが、竹内にそう思わせていた。


 竹内はサルトゥスを洞窟の外へと移動させる。

 井上は探査船に戻る時期までは指定しなかった。であれば、適当に安全が確保できれば戻ってもいいということではないだろうか。特に、今はドラゴンの行先を変えることができた。なら、もう戻ってもいい頃ではないだろうかと思う。


 そんなことを思い始めた頃、レーダーに反応がでる。

 ドラゴンであれば、直線的――。


 だが、その反応はフラフラしていて、直線とはいいがたい。

 これは、サルトゥスがジャンプして移動しているときの反応。

 友軍機が来ているのだ。


 竹内は三号機をジャンプさせ、見通しのいいところへと移動する。


「こちら三号機、竹内。応答願います――」

『あ、竹内さーん! ブロッコリーは無事でしたか?』


 能天気な返事が返ってくる。

 移動していたのは、菅野の四号機だった。

 散開時、一番、損傷が大きかったと思われるのが菅野の機体だ。

 それが、元気に動き回っているということは、整備士的には何だかうれしい。


「こっちは大丈夫だ。ブロッコリーもな」

『メロンちゃんも元気でーす! そちらに向かいますね』


 そう言うと、菅野は竹内のもとまで四号機を移動させてきた。


『竹内さん、どこに隠れてたんですか?』

「ん? 大きな洞窟があったから、とりあえずは、そこに……」

『じゃ、そこ行きましょうよ』

「え?」

『とりあえず、一息つきたいです』

「あぁ、そうなの……」


 激戦を追えたとは思えない、菅野に竹内は驚いてしまう。

 しかし、竹内は菅野に言われるままに、先ほどまでいた洞窟に戻ることになった。


『竹内さん、こんなところに「かくれんぼ」してたんですね?』

「いや、それが、小隊長の指示だろうが!」

『まぁ、そう言うことにしておきましょうか』


「え? なんなの? その上から目線?」とは思うものの、竹内は激闘を終えた菅野の気持ちを乱すまいと、平静を装うことにした。


『でも、私もこういう大きい洞窟、探してたんですよねー。ここが煙をモクモクさせてた火山だったから、何かあるかなぁって来てみたんですけど、竹内さんもいたし、大正解でした。さぁ、行きましょう!』


 そういうと、洞窟の中に入った。


  ◇◆◇◆


「――結局、駄目だったな」

『そうですね……。でも、あきらめてないですよ、私』

「お前なぁ――」


 竹内は、先ほど考えた「対ドラゴン戦」の考察を思い出す。

 いち戦闘員が、どうにかできる状況ではない。下手に現実を突きつけるよりは、戦闘員としてのプライドを維持させてやるべきか。その方が、母船への帰還のためのモチベーションには重要なのだろうとの考えに至る。


「――まぁ、いいか」

『そんなことより、竹内さん。この洞窟、どうなってるんですかね? 奥に行ってみませんか?』

「はぁ? そろそろ探査船に戻った方がいいじゃないか?」

『それもいいですけど、せっかくファンタジーに転職したのに、もうSFに出戻りってのは無いじゃないですか』

「あのなぁ――」


 つまり、菅野も任務を遂行するのは無理で、帰ることを念頭に置いているのだろうか。だからこそ、残りの時間を楽しみたいということだろうか。なら、そのぐらいの時間、付き合ってやるのもいいんじゃないだろうかと思う。


「――わかったよ。好きにしろ」

『やった! 小隊長も、すごく協力的で、今日もダンジョンを探検してたんですよね。竹内さんも、小隊長の素質、「有り」ですよ』


 だが、整備士に「小隊長」はない。


「はいはい。じゃ、ちょっとだけ、奥に行ってみるか」

『よろしくです!』


 見えてないと分かりつつ、菅野は竹内に対して敬礼をする。

 そして、竹内たちは、洞窟の奥にサルトゥスを向かわせた。

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