第16話 決戦! その2

 小隊長の一号機が、見下ろしていた崖の縁から下がる。

 逃がすまいと、菅野の四号機、次いで竹内の三号機が飛び上がった。


 だが、竹内たちの目の前に、親ドラゴンがいた。


「逃げろ!」


 竹内が叫び、三号機、四号機がそれぞれ逆方向へ退避する。

 親ドラゴンは2つの機体の間を抜けると、ぐるりと旋回。

 三号機の近くへと降り立った。


 その身体は黒く、30mを超える巨体だ。子供のドラゴンからすれば、確かに3倍程度はある。子供のドラゴンを見たときには、本物が飛んでいるという感動もあったが、さすがにこの大きさになると、恐怖しかない。


 そして、卵を持った竹内の操る三号機を見つめ、首を振り上げた。


『竹内さん、それ、ヤバい!』


 竹内も子供ドラゴンのバトルは見ている。

 その後、起きることは――。


「くそっ!」


 竹内はドラゴンの正面から逃れるように、横方向へ三号機を走らせる。


 ゴアアアァァァァ!


 直後、三号機が立っていたところを炎が駆け抜けた。


「やべぇぞ、これ! 菅野、逃げろ!」


 突如、三号機の足元に銃弾が撃ち込まれる。


『逃げられると思うな! 戦え!』


 山すそ側から、一号機の銃口が狙っている。


 竹内の三号機は半裸状態。

 装甲のない部分も多い。

 まともに銃弾をくらっては、一撃で動かなくなるかもしれない。


 舌打ちをして、竹内は山頂の火口に向けてジャンプする。

 しかし、今度はドラゴンが、逃がすまい追ってくる。


 そこに、四号機の援護射撃。

 だが、子供ドラゴンに通じない弾が、親ドラゴンに通じるはずもない。

 うろこの装甲に弾かれ、四号機は完全に無視された。

 やむなく、四号機も後を追う。


『そうだ! 戦え! ハハハ!』

 一号機の井上の笑い声が無線で届いていた。


 ゴゴゴゴゴ……。


 地面が揺れる。


「なんだこれ、これ、マズくないか?」


 竹内がつぶやく。

 サルトゥスの安全機能が、機体の膝を曲げてしゃがませた。

 

 ドガアアァァァン!


 突然、戦場となっている火山が噴火した。

 付近に火山弾が降り注ぐ。


 ガンガンと機体に、火山弾が当たる。

 サルトゥスのコックピットに警報音がけたたましく鳴り響く。


 ドラゴンも降り注ぐ火山弾を嫌そうにしている。

 図体が大きい分、大きな岩も数多く当たっているのだ。


 カメラが壊され、竹内の視界が一つ、二つの消えていく――。


「クソッ!」


 竹内はヘッド・マウント・ディスプレイを投げ捨てる。そして、コックピット開閉の油圧を手動で抜くと、ドアの上半分が解放された。

 風と共に、火山の熱気がコックピットに流れ込んでくる。


「暑っちぃな」


 竹内の眼前にはでっかい卵が抱えられているが、視界がないわけじゃない。

 即座にサングラスのようなメガネタイプのヘッド・アップ・ディスプレイHUDを装着すると、竹内は『肉眼モード』に切り替える。


「ピーピーうるせぇな。分かってるよ! 菅野! そっちは大丈夫か!」

『はい! でも、警報音が』

「こっちもだ! でも、やるしかねぇ!」

『はい!』


 菅野は四号機の安全機能を解除して、立ち上がる。

 そして、機関銃をブッ放しながら、一号機に向けて走り出した。


『小隊長、覚悟!』

『クソッ! こっちじゃねぇ! ドラゴンに行けって!』


 井上が乗る一号機も機関銃で応射する。

 だが、揺れる地面。

 定まらない狙いに、弾丸はむなしく外れていく。


『でやああぁぁ!』

『弾に向かってくんじゃねぇよ! こんな状況で恐怖心ってのがねぇのか!』


 突撃する菅野。

 それに、恐怖する井上の絶叫。


 迫りくる四号機に、一号機はジャンプして逃げようとする。

 だが、追いつかれ、一号機の脚を四号機がキャッチ。

 無理やりに引きずり下ろしてやる。

 そして、一号機は地面に叩きつけられた。


 無理に捕まえた反動で四号機もバランスを崩す。

 そして、2機のサルトゥスがもつれ合い、火山の斜面を転がっていく。


 いち早く立ち上がったのは菅野の四号機。

 まだ倒れている一号機に銃口を向ける。

 だが、瞬時に井上は一号機の腕で、四号機の機関銃を払いのけた。

 銃弾は一号機の脇に、横に直線状の弾痕の列を作る。

 そして、一号機は四号機を突き飛ばすようにして、起き上がった。


『ふざけんな! ロボット同士のバトルじゃ、意味がねぇんだよ!』

 井上が叫ぶ。


 突然、かなり大きく地面が揺れる。


 ドガアアァァァン!


 さらに、火山が噴火した。

 今度は頂上の噴火口から溶岩が噴出し、流れ落ちる。

 一方で、フタになっていた岩石などは吹き飛ばされ、火山弾は激減する。


 地震が少し落ち着いたとき、竹内は頂上付近から三号機を走らせた。

 菅野たちがバトルしていたエリアへと近づく。


「菅野! 逃げるぞ!」

 

 ドガアアァァァン!


 さらに地震、そして、噴火。


「あっ!」


 竹内の三号機はバランスを崩して、卵を落としてしまう。

 卵は転がって、岩にぶつかってひびが入った。


『ドラゴンとのバトルがないんじゃ、仕方ねぇ。代わりにコイツはもらっていく。もう、お前らとやりやっている余裕はねぇよ』


 井上の一号機が卵を奪い取る。


 しかし、溶岩が火山の斜面を流れ、周囲を囲むようになっていた。

 ジャンプは可能だが、着地場所を間違えれば終わりだ。


『ちっ、少し遅かったか』

『待て! その卵は私たちのものだ!』


 菅野の四号機が、一号機の卵を横取りしようとする。


『邪魔だ!』

『返せ!』


 そんな二人の言い争いの中。

 黒い影が菅野と井上の上空を通り過ぎた。


 ズズン――。

 

 山すそ側にドラゴンが舞い降りる。

 逃げ道を防ごうというのだろうか。


 ゴアアアァァァァ!


 今度はドラゴンが、炎を吐いてくる。

 菅野と井上が、炎を避けようとジャンプの操作を入れようとした、その瞬間――。


 地面が大きく揺れる。

 そして噴火。


 足元が定まらなかった一号機と四号機は、ジャンプに失敗。

 100mも飛び上がることなく失速した。

 

 二人の足元には、見上げるドラゴン。

 着地マーカーは「ドラゴンの背中」と「ドラゴンの脇の地面」に付いた。


 本来なら、不安定なドラゴンの背中などにマーカーが付くはずがない。

 これは菅野の行動を学習した結果だろう。


 確実に着地するならドラゴンの脇の地面にすべきだ。

 だが、それでは即座にドラゴンの力でねじ伏せられるかもしれない。


『ドラゴンの上なんかに――』

 躊躇する井上。


 だが、菅野は即座に「背中」を選択。

 四号機は背中と足のロケットを噴射し、着地態勢に入る。

 背中に着地すると、即座にジャンプしてドラゴンから離れた。


 一方、遅れた一号機は反応できないまま、ドラゴンの背中に無様に落下。

 背中に弾かれ、そして、一号機の機体は流れる溶岩の中へと落ちた。

 

『ドラゴンの背中に降りるなんて、凡人が反応できるかよ――』

 一号機は溶岩の中で倒れ、そして、動かなくなってしまった。

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