第15話 決戦! その1

 ダダダァーーン!


 突然の銃撃。

 竹内の三号機が攻撃を受ける。

 幸い、二発は外れた。

 だが、一発は卵に命中。


「なんだ?」

 竹内は音がした、頭上を見上げる。

 

 そこには、銃口を向けたサルトゥスが一機、竹内たちを見下ろしていた。


『それは……、ひょっとして、ドラゴンの卵なのか。お前ら、面白いものを見つけるもんだな』


 小隊長、井上からの通信が入る。


「危ないじゃないですか!」

『悪かったな』

「それより、小隊長、これはドラゴンの卵である保証はありません。ですが、可能性があるので持ち帰ります。それより、親ドラゴンが迫っています。急いで戻らないと――」


 さらなる、一号機からの射撃。

 三号機の足元に、75ミリの弾丸が撃ち込まれる。


『分かっている。申し訳ないが、ここに残ってくれ』

「何するんですか! この火山も噴火するかもしれません! 急いで帰りましょう!」


 さらに、一号機からの三点射。

 竹内はサルトゥスのペダルを後ろに軽く踏み、三号機を後退させる。


『まだわからんようだな。お前らには親ドラゴンと戦ってもらう』

「はぁ? 子供にだって勝てないのに、親になんて――」

『ああ、わかっている。ここで死んでくれと言っているんだ』


 突然の大きな地震。


 足元が揺れ、サルトゥスのAIが自動制御を開始。

 3機とも、膝をついて姿勢を安定させる。

 

 ドラゴンの巣の壁面も崩落し、今まで通ってきた洞窟も入口が塞がれてしまった。

 噴火が近いのかもしれない。


 地震が収まるとともに、3機のサルトゥスは立ち上がる。


『随分と危ない場所に巣を作るんだな、ドラゴンってのは。さて、どうやら親ドラゴンが来るまでには、もうしばらく時間がかかりそうだ。せっかくだから、お前たちにもこのプロジェクトの真の意味を教えてやるよ。まず、私にとってはドラゴンが捕まえられるかどうかは、どうでもいい。この「サルトゥスがドラゴンと戦う」という、そのデータが欲しいんだ』

「そんなものは――」


 一号機が銃口を、竹内の四号機に向けてくる。


『まあ、話を聞けって。真実を知らなきゃ、死に際にモヤモヤするだろ? 「なんでこうなんるんだ」ってな。それを解消してやろうってんじゃないか。とにかくだ、私は菅野とドラゴンの戦いのデータが欲しいんだ』


 そう言って、一号機は銃口を菅野の乗る四号機に向ける。


『お前らが動かしているこの「ロボット」ってのはな、AI制御なしには成り立たない。自分で操作しているようでいて、対象を指定して、「つかむ」とか「撃つ」とか、そういう簡単な操作を指示するだけだ。後は全て機械任せ。だが、「動作」ってのは、いろいろな連携で成り立っている。人間がはしの上げ下げをするのだって、バランスを取ったり、ぶつからないように距離を取ったり、折らないように力加減も必要だ。そして、それは経験を学ばせることによって成り立っている』


「そんなのは当たり前じゃないか。それと、俺らが親ドラゴンの相手をしなきゃならないこととは関係がないだろう。好きなら、自分でやればいいじゃないか」


『竹内。私と同じ、凡人であるお前ならわかるはずだ。子供ドラゴンとのバトル。お前も見ただろう。お前が所属していた部隊で、あれと同じことができる奴がいるか? 少なくとも私にはできないし、同じようなことができるヤツも見たことがない。天才は世界を変えるんだ。ロボット制御における、制御指針。菅野は、それすらをもブチ破るかもしれない』


「菅野の『行動』を覚えさせるなら、ドラゴンが相手でなくてもいいだろう」


『ああ、そうだ。陸自の幹部もよくわかっているよ。菅野は気が付いていないかもしれないが、陸自じゃ特別扱いなんだよ。だから、菅野は好きにさせてきている。だがな、凡人が作る練習カリキュラムじゃ、天才には不十分なんだよ。爆発的な発展が望めねぇんだ。狂ったような練習設定――』


「それが『対ドラゴン戦』ってことか」


『そうだ。分かってきたか? 菅野がこのプロジェクトに手を挙げたとき、この真のプロジェクトもスタートしたんだ。だが、陸自の幹部は、その程度。別に、俺と違って死ねとまでは思っちゃいない。しかし、ギリギリの環境下に置かれた「学び」を欲しがっている所もあるだろ?』


 このAIの成長で一番、得をする者。

 四菱重工に後れを取っている後発メーカー。

 つまり、このデータを直接持ち帰ることができる――。


「神戸重工業ってことか」

『そうだ。私は帰還後、神重かみじゅうに入社することが決まっているよ。菅野のデータを手土産にな。だから、極限まで戦って、神重の製品向上に貢献してもらいたいんだ』

「お前――」


 一号機が銃口を、竹内の四号機に向けなおす。


『だから、待てって。まず、探査船だが、私が連絡して、軌道上に戻る作業を優先させた。燃料を無駄に使わないように、無線も切るように要請した。ドラゴンが迫るか、2時間が経過するか――、そのどちらかの状況になったら離陸するように伝えてある。2時間ってのは、いい設定だろ? ちょっとドラゴンと遊んで、帰りつけるぐらいの時間だ。

 それから、二号機の斉藤だが、探査船に戻した。ドラゴンが来たら、護衛するようにな。こちらも、無駄なエネルギーを使わないように無線は使用しないように伝えてある。つまり、お前らが期待するような援軍は来ない、と言うことだ。どうだ? 覚悟は決まったか?』


 菅野の四号機が、頭上の一号機に銃口を向ける。


『分かりました。私は自分のことを天才だとは思っていませんが、天才と認めるなら、追い詰められたのは小隊長、あなたの方だと思いませんか?』


 通信に菅野が入ってくる。その呼吸が荒い。


「菅野、落ち着けっ!」

『竹内さん、何を言ってるんですか! こんなヤツ――』

『そうだな。だが、もう時間だ!』


 小隊長の一号機が、見下ろしていた「ドラゴンの巣」の崖の縁から下がる。

 逃がすまいと、菅野の四号機、次いで竹内の三号機が飛び上がった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る