第17話 決戦! その3
卵は溶岩の流れる脇に堕ちて、バチャと割れてしまっていた。
即座に、菅野は四号機を卵の元に走らせる。
『あぁ、大丈夫かな』
四号機が卵を持ち上げる。
卵から液体がドロドロと漏れていた。
だが、形は何とか保っている。
「菅野! 危ない!」
ゴアアアァァァァ!
ドラゴンが、四号機に向かって炎を吐いてくる。
竹内の忠告で、菅野が素早く操作。
四号機は横に躱すことができた。
「こっちだ! そんな物は置いて、もう戻ろう!」
竹内の呼びかけを無視し、卵を抱いたまま菅野の四号機はジャンプしてくる。
「バカ! だから、そんなもの置いていけって!」
『でも、持って帰らないと任務が――』
「知るかよ! 今は生きて帰らなきゃ!」
『でも……』
こんな問答をしている場合ではない。
とにかくこの場を、そして、ドラゴンから離れなきゃいけない。
「クソ! 分かった! じゃ、飛ぶぞ」
『はい!』
ゴアアアァァァァ!
ドラゴンが炎を吐いてくる。
間一髪で飛び上がる。
だが、ドラゴンは逃がしてくれない。
翼を広げると、大きく羽ばたき始めた。
ジャンプして逃げる2機のサルトゥス。
追ってくるドラゴン。
卵を抱えた四号機は、やや遅れ気味。
そして、残念ながら、ドラゴンの方がはるかに速い。
「ダメだ、逃げ切れない!」
『でも、この子は置いて行きたくありません』
「お母さんに返すんだぞ」
『お父さんかもしれません』
「はぁ? 父ちゃんなら、別にいいだろう!」
『DV夫だったら、どうするんですか!』
竹内は頭がついて行かない。
今、まさに、命のかかった状況なんだぞ。
しかし、そんな無駄話をしていた時だった――。
着地の瞬間、ドラゴンが菅野の四号機の背中にかみついた。
『きゃ!』
ドラゴンは力任せに四号機を放り投げる。
「菅野!」
竹内は、三号機で菅野の救助に向かう。
しかし、菅野の四号機は起き上がることすら、ままならない。
四号機は背中のロケットパックがかみ砕かれ、激しく転げた際に足を動かすサーボモーターがイカレてしまったようだ。
『竹内さん、メロンちゃん、もうダメそうです。逃げてください……』
四号機は動かない。
竹内が振り返ればドラゴン。
火を吐かれれば終わる。
菅野を四号機から助け出す時間はないと考えるべきだろう。
だが、見捨てるのか?
竹内にはそんなことはできなかった。
気まぐれだったかもしれない。
でも、「好き」と言われて、ちょっと心が動いた。
菅野の好きなアニメや漫画のヒーローなら、カッコよく助け出してやるんだろう。
好きな女の子を助け出せるなんて、ロマンあふれる展開じゃないか。
俺だって、そのぐらいやれるんだよ。
なんて、そんなことを竹内は思ってしまった。
背中に背負ったスティンガー・Rを構えて、ドラゴンに向き合う。
『竹内さん、ダメです! シーカーが反応しません! 逃げてください!』
肉眼で見る30mを超える巨体のドラゴンは、ものすごい迫力だ。
とてもじゃないが、勝てないと竹内は思う。
だが、ヒーローってのは違うだろう!
倒さなきゃいけないんだ!
ドラゴンは首を振り上げ、振り下ろし始めた――。
竹内は、メガネに投影された眼前のヘッド・アップ・ディスレイ越しに睨む。
そして、竹内はドラゴンの頭に狙いを定め続ける――。
だが、シーカーは反応しない。
――だが、ドラゴンが口を開いた、その瞬間。
ピ――……
――ロック・オン。
ドラゴンの口の中にジェットエンジンのような高温を、シーカーが捉える――。
ロケットが点火。
ミサイルが飛んでいく――。
ゴオオオオォォォ!
ファンタジーの炎と、科学の剣が交錯する。
竹内は三号機をくるりと回転。
四号機をかばうようにドラゴンに背中を向けた。
その刹那、竹内の世界が業火に包まれた。
ボガアァァァン!
「ギヤアアァァァ!」
ドラゴンの絶叫!
炎から解放され、竹内は三号機を振り向かせた。
ミサイルは炎の熱に焼き切られる前にドラゴンの口に到達。
口内からその顔の三分の一を吹き飛ばしていた。
これで勝ったとは思えない。
だが、逃げるには十分な時間は稼げそうだ。
竹内は三号機から降り、四号機に向かう。
そして、ハッチを開けて、状況を確認する。
「菅野、大丈夫か?」
「はい……」
「余裕はないぞ、立てるか? 急がなきゃ、探査船も行っちまう」
「分かってます、急ぎましょう」
竹内は菅野を三号機に乗せる。
どうやら、ドラゴンは勝てないと判断したのだろう。
羽ばたいて去っていく。
「なら、コイツももらっていくか」
竹内は三号機にひびが入り、潰れかけた卵を抱える。
「さぁ、時間がない、行くぞ」
「はい。――あの……」
「ん?」
「なんか、竹内さんカッコいいですね。ヒーローみたいです」
「バカ。俺をほめても何も出ねぇぞ。じゃ、行くぞ」
「はい」
竹内は三号機を操作し、探査船へと向けてジャンプした。
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