第7話 ドラゴン・スレイヤーたち その3

「――ここだけの話ですよ」

「ん? なんだよ?」


 急に真剣なまなざしを向ける菅野に、竹内も身を乗り出す。


「実は、撃ち損じたスティンガー・R人型ロボット用携帯式防空ミサイルシステムですが、わざと撃ちました」


 ニヤリとしながら得意げに話す菅野に、竹内はガッカリする。


「うん。だろうね。ロックオンできてなかったんだろ? 撃とうとすると『え? ロックオンできてないのに、本当に撃っていいんですか? バカじゃないんですか?』って言う感じで訊いてくるもんね。間違ってボタン押しちゃったぐらいじゃ、警告表示だけで撃てなくて、さらに警告をガン無視して、何回かボタン連射しないとダメだもんね。絶対確信犯だと思ってたよ。さっきの会話からも、コイツ、ヤバい奴だなってのも分かったし」

「え、そうなんですか? 小隊長にもバレてないと思うんですけど」

「それもないと思うな。ここまで来ちゃったら、隊員を代えることもできないし、負担のあるミッションだから、穏便に済ませてくれたんだと思うぞ」

「ちぇっ、バレてないと思ったのに」


 菅野は舌打ちをして、そっぽを向く。


「おい、反省しろ」

「反省はしてます。でも、サイトに捕らえたら、撃ちたくなるじゃないですか」

「あれはレーダーの照射方向だからな。だいたいは一致させてるが、機関銃の75ミリ弾のように調整してるわけじゃねえよ。ってか、盲目的に撃とうとするな。命令や、指示にしっかり従え。いいな」

「いや、望むままに生きたいと思います!」

「お前の『生き様』は聞いてない。俺たちは組織だ。命令には従え」

「本能が求める答えを見つけたいと思います!」

「自分探しは止めろ! とにかくいいな!」

「うー、わかりました」


 とりあえず、菅野が納得してくれたようなので竹内は安心する。ただ、性格みたいなものは、そう簡単に変わるものでもない。菅野の扱いには注意しなきゃいけないと感じ始めていた。


「それで、どういう攻撃をされたんだよ」

「そうですね。発射したミサイルは、ドラゴンの上の少し上を通り過ぎていきました。それから、ドラゴンが振り返り、ブロッコリーが見つかってしまいます」


 急に『ブロッコリー』が出てくると、再現のための竹内の脳内ムービーに違和感を覚える。ファンタジーが、お料理クッキングをしているのだ。だが、そもそもドラゴンからして、ちょっとおかしいのだから、やむを得ないものとして竹内は話を進めることにした。


「そりゃ、そうだな」

「当たらなければ、仕方ありません。それで、退却命令が出ましたから、三体とも背中と足のロケットを噴射し、その場から飛び上がり、ジャンプしながら退却を始めました。ですが、ドラゴンの速度は速く、ブロッコリーは着地とともにドラゴンに捕まってしまいました」

「捕まる?」

「はい。とはいえ、それほど手先は器用じゃありませんから、手をかけて押し倒そうとしたのかもしれません」

「もう、手の動きが器用じゃないことまで分かったのか」

「いえ、私のこれまでの知見です」


 初めて会ったはずなのに、菅野の「知見」のはずはない。


「いや、先入観は入れないでくれるかな。空想上の設定と、ここのリアルが同じかどうかは分からんからな」


 報告にまでオタク知識が邪魔するとは、社会人としてどうなのだろうかと竹内は思う。だが、実際問題、襲われたビデオ映像をちょっと覗き見た感じでは、器用に使えそうな手はしていなかった。


「とにかく、ドラゴンはブロッコリーの右肩に手をかけ、バランスを崩してブロッコリーは後ろへ倒れてしまいました。その後、ドラゴンの口から炎が出て、ブロッコリーの全身が焼かれてしまいました」

「見た目からして、噛みつかれそうな気もするが、引き倒して焼くんだな」

「ブロッコリーの方にかけた手の感触から、噛むには『固い』ってわかったのかもしれません」

「なるほど。しかし、間近で焼かれるとは大変だったな」

「ええ。でも、すぐに一号機からの機銃掃射があったので、ドラゴンは後退。おかげで、ブロッコリーは脱出することができました」

「追ってこなかったのか」

「はい。二号機も加わり、二体でドラゴンへの攻撃を行いましたので、嫌がって逃げていきました」

「なるほどな。それで、75ミリで撃って、ドラゴンに効果はあったのか?」


 菅野は首を横に振る。


「逃げていきましたから、効果がないわけではないと思います。詳しくは映像を見た方がいいと思いますが、血のようなものが出ていた印象はありませんでしたから、弾かれていたように思います」


 竹内はため息をつく。


「そうなると、厄介だな。機関銃じゃ効かないし、ミサイルも上手く扱えない。母船に戻れば爆薬はあるが、簡単に近づけるって感じじゃねぇしな。どうやってドラゴンを倒せばいいんだよ」

「当面、小隊長はドラゴンの生態観察を行って、弱点を探るみたいです」


 こちらの火力で倒してしまえない以上、そうするしかない。しかし、弱点が見つけられないと、野たれ死んだドラゴンの死体でも見つけない限り、このミッションは終われそうにないことになる。約束された昇進や給料が無くなるわけではないだろうが、失敗に終わったんじゃ、その後に冷遇されてしまいかねない。


「何か見つかるといいんだがな。まあ、状況はよくわかった。機体の負荷も炎によるものが中心なら、被害のほとんどは外装だけだろう。今日は菅野も休んで、今後に備えてくれ」

「分かりました。ブロッコリーのこと、頼みます!」

「お、おう……、任しとけ」


 最後まで『ブロッコリー』と言う表現に慣れないまま、菅野との時間が終わってしまった。


 職場が一緒だったなら、メカが好きだったなら、性癖が一緒だったなら、竹内はこんなところに来なくて済んだのだろうかと思う。それほど愛想の良くない自分には、一緒に過ごした時間よりも、本当は『性癖』の一致の方がよかったのだろうかと思いながら、去っていく菅野の背中を見送った。

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