第6話 ドラゴン・スレイヤーたち その2
「あー、全裸ですね。これ、竹内さんの好みですか?」
「え? お前もそれ言うわけ? 点検のためには仕方ないだろ!」
既視感のあるやり取りに、ちょっと驚いてしまう。
しかし、付き合っていられないとばかりに竹内は整備に戻ることにする。
だが、菅野も三号機の胸のハッチの脇までついて来た。
「隠さなくってもいいですよ。裸になると、機械の駆動部や配線がむき出しになっていて――。このメカメカしさ! 竹内さんも、これに興奮するんですよね! 私も全裸ロボ、大好きです!」
花子の言い方は『AI・ジョーク』とでも言えばいいのか、突飛な表現をあえて用いることで、竹内の労働や緊張に
「『も』って、俺が好きなことを前提にしないでくれる? 整備士が、整備手順に従って整備してるわけ。興奮するわけないでしょ!」
竹内が説明するも、興奮した菅野が竹内に詰め寄る。
「じゃ、なんで竹内さんは整備士になったんですか? 『性癖』って誰にでもあるものだと思いますよ。恥ずかしがることじゃないです」
「あのな、機械に対するフェティシズムで就職先を選ぶ分けねぇだろ。それに、大した理由なんてねぇよ。営業マンとして働くとか、ちょっと想像できなくて、それで……」
「つまり、他に比べて、このメカをいじるという夢とロマンに魅せられたってわけですよね!」
竹内は強く首を横に振る。
「いや、どうして、そっち行っちゃうわけ? 消去法で選んだのに、かぶりついたように言うの、やめてくれる?」
「いいえ、違います! 消去法なら、他にも選択肢はあったはずです。でも、数ある残った選択肢の中で、整備の道を選んだのは、竹内さんの深層心理が、それを欲していたからに違いないんです!」
「えぇ……」
そこまで力説されてしまうと、明確な理由がないままに選んでいるため、実はそうなのかと竹内自身も思ってしまう。だが、負けるわけにはいかないのだ。
「じゃ、お前はどうなんだよ!」
「訊いちゃいますか? 訊いちゃうんですね? いいですよ!」
竹内は『地雷』を踏んでしまったのだと気づく。だが、既に遅かった。
「ファンタジーを攻めるか――、SFに行くか――。BLというのも捨てがたかったのですが、それは就職で何とかなる話ではないので、消去しました。竹内さんと同じ消去法です」
「いや、そこ、俺と一緒にしないでくれる? 消去って点で完全には間違ってないけど、なんかいろいろと違ってる気がするんだけど!」
「今は、竹内さんの意見は聞いていません」
「じゃ、俺に向かって話さないでくれる? あ、聞いていないか……」
三号機のハッチの隣で熱弁する菅野を止められず、どうしようもない。
「ファンタジーって、どこに就職すれば願いはかなうのでしょうか。私にはわかりませんでした。で、さんざん悩んだ挙句、SFの方に行こうと決めたんですよ。メカのようなものなら、就職先もありそうだったので。でも、私にメカを開発する頭は無いので、なら、もうここしかないかなって」
そう言いながらも、ひょっとすると菅野の深層心理はBLを期待していたのだろうかと思う。『メカが好き』と言いつつ、戦闘員、つまりはマッチョな奴が多い部署を選択しているあたり、そう言うことなのかもしれないという考えに、竹内はたどり着く。すると、自分もメカに対する『性癖』の目覚めなのかという流れになる。なんだか、今度、自分の『性癖』についてじっくりと向き合いたくなった。
しかし、オタクをこじらせた先が陸自というのは、ちょっとかわいそうな気もする。なんだかんだで、軍の現実とは厳しいものだからだ。ときどき、オタクを狙ったと思われるような広報戦略も、色々と物議を呼ぶこともあり、騙すよりも覚悟を決めた方が良いのではないかと竹内は思っていた。だが、選択してしまったのなら仕方がない。
「で、SFに就職したけど、ファンタジーの職場ができたから、転職したのか」
「そのとおり! こんなことってありますか? このミッション、私のために神が用意したとしか思えませんでした!」
確かに、こんなミッション、ちょっとありえない。いろいろな偶然がなきゃ、本当にありえないことだ。だけど、すぐに『神』を出すあたり、菅野は間違いなくオタク気質なんだと思う。
「分かった、分かった。もう十分に分かったよ」
「本当に分かってますか? 夢ですよ、ロマンですよ、そこら辺、勘違いしてませんか? 私たちは動物じゃありません。人が人として、生きるための動力源ともいうべきものです!」
さすがに主張が強すぎて竹内にはついて行けない。でも、最初に研究者の中村の話を聞いたときに、そんな奴は少数派なのだろうと思った。だが、菅野の話を聞いて、人間って案外単純なんだなと思う。しかし、誰が、どんな理由でミッションに参加しようが、それはどうでもいいこと。完遂すればいいことなのだ。
「はいはい。分かってるって、もういいだろ。それより、修理にも必要だ。三号機が攻撃された状況を教えてくれるか。映像の方は、早々に研究者に取り上げられちまったからな」
菅野はやや不満そうにするが、これ以上の議論は難しいと判断したようだ。
「はい、わかりました。確かに、ブロッコリーの修理には必要かもしれないですね。――ここだけの話ですよ」
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