第9話 三号機、発進! その2
ジャンプをして、一気に距離を稼ぐ。
安全な場所を選択して、着地。
そして、さらにジャンプを繰り返す。
探査船プローブを着地させていた河口周辺から、川に沿って上流を目指す。
既に周囲は山地になり、さらに奥を目指していた。
ジャンプの後、背中と足のロケットで落下速度を調整。
ほとんど衝撃もなくサルトゥスは着地することができる。
だが、未開拓の森林地帯。
そこに平地がある保証はない。
少なからず、周囲の木々をなぎ倒しながら進んでいくのだ。
ゴオオオォォォ!
バキベキバキベキ……。
ズズン――。
サルトゥスの機体が地面に降りるたび、鳥や虫が飛び立ち、周囲が騒がしくなる。
だが、そんなことはお構いなく、さらにジャンプを繰り返していく。
地球で見るような動物もいるが、そこは地球でいうなら恐竜が生きていた中生代が近い。竹内が移動している場所は森林地帯なので、あまり巨大な動物はいない。だが、平原に行けば恐竜のような比較的大型な動物も、母船からの観測で確認されている。
ジャンプをし、着地場所を指定すると、竹内は空中で周囲に目をやる。
見渡す限りの山。
そして、森林。
煙を上げる山も複数見える。
そして、火山が活発なためか、マグマや土石流が通った後など、ほとんど何もない領域も多くみられた。
見たところ、ドラゴンはいないようだ。
レーダーにも反応は無い。
「まだ大丈夫のようだな……」
そんなことを呟きながら、竹内は安心する。
さすがにドラゴンは空を飛んでいるようなので、出会い頭にぶつかることはない。
なんといっても、竹内にはレーダーがある。
サルトゥスに搭載しているものでは、長距離の状況は分からない。
だが、生身のドラゴンに比べればはるかに遠方まで把握することができるはずだ。
そうであるなら、反応があれば適当なところに身を潜め、やり過ごせばいいのだ。
とはいえ、戦闘員ではない竹内にとって、倒す方法が分からない強敵に対し、一人で向かっているのは気分が良くない。やはり緊張する。
何より、既に探査船プローブから、かなり離れてしまった。彼らがいて助けてくれるわけではないが、メンタル的に誰かに傍にいてほしい気がするのだ。だが、戻るわけにいかない以上、早く小隊に接触しなければと思う。
そんなことを思いながら、地面に着地した。そして、次のジャンプのために竹内が足元のペダルを強く踏み込もうとしたとき、視界に森の緑とは異なる領域をとらえる。
「ん? なんだ、あれ?」
見れば、洞窟のようだ。
「そういえば、小隊に無線が届かないんだったな」
そんなことを呟きながら、竹内はサルトゥスを洞窟に向けて歩かせた。
近づいてみると、洞窟はかなり大きい。
約10メートルのサルトゥスが、問題なく入っていける。
竹内はサルトゥス内臓のライトをつけ、さらに洞窟の奥へと進めてみる。
同じような空洞が続き、特に何かがある様子はない。
竹内は視線をサルトゥスの足元に移す。
そして、地面付近の映像を注視した。
そこには竹内の乗るサルトゥス以外、ロボットが作る幾何学的な足跡はなかった。
「これ以上は、必要ないか……」
竹内はサルトゥスを洞窟から出すことにした。
『こちら、探査船プローブ、船長の渡辺だ。竹内君、聞こえるか』
サルトゥスを洞窟から出すと、無線が入る。
探査船プローブからはかなり離れてしまった。それでも無線が届くということは、今、惑星軌道上の母船エクスプローラーが、竹内の頭上から捉えられる位置を回っているのだろう。
「はい、こちら竹内。聞こえます。どうしましたか?」
『よかった。連絡が取れなかったから心配したよ』
「すいません。小隊と連絡が取れないということでしたから、見つけた洞窟に入っていたところです」
『そうか。こちらは小隊と連絡がついた。戻ってきてくれることになったよ』
「それはよかったです」
竹内は安心する。
とりあえず、これで任務は終了だ。後は探査船に戻るだけ。
『それから、これは井上さんからの伝言なんだが、竹内君は探査船より、小隊の近くにいるはずなんだ。このまま、アルファ地点に向かい、小隊と合流して欲しいとのことだ』
「小隊長が? 合流してから戻るってことですか?」
『そう言うことだと思う』
頼りになる人がいることは心強い。だけれど、援軍の来ない戦いの最前線に行くというのだから、緊張から解放されるわけではない。
「――分かりました。ところで、ドラゴンはどうなりましたか?」
『依然として、こちらに向かっている。ただ、時々、休憩しているのか、想定しているよりは遅いようだ』
「分かりました。それから、こういう洞窟って、沢山あるんですか」
『そうだね。詳しいことは分からないが、火山洞窟なんだと思う。周辺を移動して分かったと思うけど、惑星ウーレアーは活発に活動している惑星だからね。火山が多いんだ。重力も地球よりも小さいから、崩れずに大きい構造ができても不思議はないよ。とはいえ、私たちにとっては、ほとんど未知の惑星だよ』
「そうですか。それじゃ、アルファ地点に向かいます」
通信を終えると、竹内はアルファ地点へ向けてジャンプした。
◆◇◆◇
ジャンプを繰り返し、竹内は三号機を進ませる。
安全な場所を選択して、着地。
そして、さらにジャンプを繰り返す。
『こちら一号機、井上。三号機、聞こえるか』
「はい、こちら三号機、竹内です。聞こえます。どうぞ」
『こちらで三号機をレーダーで捉えた。三号機の進行方向から見て10時の方向、一番高い山にいる』
竹内は視線を少し左に逸らす。
確かに、井上の言うように10時方向に周囲で一番高い、目につく山がある。
「了解。ただちに向かいます」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます