夫婦の契り 5
子供……。朱雀の娘は身体が丈夫で、子をたくさん
産める。
──まぁ、コレに子供が産めるかは分からないけど。
そう言って私をじろりと眺めるお姉さまの目を思い出した。お姉さまはたしか、二人子供を産まれてるはず。会わせてもらえたことはなかったけれど。
私は、どうだろう……。そんなこと考えたこともなかった。
旦那さまの手が私の寝衣をはだけさせていく。自分の身体を誰かに見せるなんて、この前の翠蓮が初めてだった。
思えば、翠蓮たちの腕と比べて私の腕は随分と細い。あの血色がよくて生き生きとした、それでいて柔らかくて健康そうな腕と比べたら。私のは木の棒みたい。
旦那さまの目には、この身体は貧相に写っているに違いない。
あらわになった肌に、旦那さまの手が触れる。その冷たさに思わず身体が跳ねた。
「申し訳ございません、」
「なんで毎回謝んだ」
「失礼をしてしまっているから、」
「今の何が俺に失礼を働いたってんだよ」
今も不機嫌なお声をしているから、私が粗相をしてるに違いないのに……何が気に障ってしまっているのか分からない。
「だん、」
旦那さま、と言いかけて言葉を飲み込む。旦那さまも着物を脱がれると、顔と同じように黒い絵の描かれた腕が。肩、そして首まで。
私の身体とは随分違う。翠蓮たちの腕とも違う。これが、男の人……。
呆けていると、私の着物もすべて取り払われてしまった。旦那さまにまじまじ見下ろされると、居心地が悪くなってしまう。
お姉さまや妹たちに見られてる時のとは違う、居心地の悪さ。嫌だというものではなくて、むずむずするようなもの
「あ、あの……」
「…………。」
何も仰られないと、不安になる。また何かしてしまったんじゃないかと。
「ひゃ、」
首元に旦那さまの唇が触れて、変な声をあげてしまった。手は冷たかったのに、身体は温かい。熱いくらい。
「なに、を」
旦那さまは何も答えてくれない。私の体温と混じって、少し温もりを戻した手が胸に触れる。その感覚に、背中がぞわぞわと戦慄いた。
こんなの、初めて。翠蓮に触れられた時と全然違う。旦那さまの指がそっと肌を滑るだけで、身体の奥がきゅうっとなってしまう。
お、お姉さまもこのようなことをしたのかな。お嫁に行く姉妹も多かったから、他の妹たちはお母さまやお姉さまからこういったことを習ったのかな?
旦那さまとの行為に戸惑うばかりに、ついそんなことを考えてしまう。子を作るためには、このようなことが必要だったなんて……。
旦那さまに触れられるのはくすぐったくて、でも人の体温が気持ちいいと思っていたのは最初の方だけだった。
「ふっ、うぅ…………っあ、」
身体を内側から引き裂かれるような強い痛み。私の中へと押し入る旦那さまの熱が、焦がすように痛い。痛みのあまりに涙が零れてしまうのを止められないから、行灯を消してほしかった。
泣いているなんてきっと旦那さまに失望されてしまう。嫁いだ者の責務を果たすためなのに泣いてしまうなんて、旦那さまはみっともないと思われたに違いない。
「ひ、あぁっ、うう」
痛いなんて口が裂けても言えない。だから歯を食いしばって耐えた。これくらい耐えられなくてはならないのだと何度も自分に言い聞かせて。
心臓がドクドクと脈打つのを全身で感じる。汗が止まらない。旦那さまと無理矢理に繋がっているところが熱い。勝手に呼吸が乱れて浅くなる。
「…………耐えれるか?」
そう尋ねてきた旦那さまの声も、お辛そうに聞こえた。もしかしたら旦那さまも痛いのかもしれない。必死にこくこくとうなずけば、「なら、いい」と小さく一言。
本当はすぐにでもやめてしまいたかった。でも私の首がこうして繋がっているのは、この人が情けで伴侶の役目を与えてくれているから。
そのためなら、どんな痛みでも耐えなければ──。
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