潤清曰く
「まったく……揃いも揃って黒河を舐めた奴らばっかりだ。琥珀も桜も珊瑚も、一体何の役に立つ? そんな物を持ってくるくらいなら、鉄を寄越して欲しいもんだ。なあ
呆れるばかりの献上品を見ながら従弟に話しかければ、本人は気だるそうに外を眺めているだけだった。まあ、いつもの事だ。
「特に朱雀だ。あんな痩せ細った娘を嫁にだなんて……今すぐ追い返すなり処分するなりした方がいいぞ。一応お前が言った通り離れにやったが、着物もろくに脱げないような娘だ。」
「俺はあいつを
「そうだよな。さっさと処分……待て、今なんて言った?」
自分の耳を疑って従弟を見れば、従弟はまだ窓の外を向いたままだった。
「嫁にするって言ってんだ」
「あの娘を?
「あの簪は十二の時に俺があげたやつだ」
「あの娘に会った事があるのか? 今日の今日まで、あんな異色の娘が朱雀にいることなんて誰も知らなかったのに?」
初めて
十二……たしか、
帝の命により建国以来、四方守護を担っている四家。そしてその四家では担いきれない仕事……いわば汚れ仕事を請け負うために海波から派生した血筋が涙が当代を務める黒河だった。俺の家、
国の表側を護るのが四家ならば、裏側を護るのが黒河。今や黒河は四家と同列と言えるほど無くてはならない存在になった。だから四家の血筋が途絶える事が許されないように、黒河の血筋が途絶える事も許されない。つまり、
おまけに黒河の仕事は血生臭いものばかりだ。それを理解して耐えられるような人物じゃないと無理だろう。
「俺は反対だ。あの娘に黒河の伴侶が務まると思えない。」
「……。」
「なんだよ」
「あれは俺の
……ああ。そういえばこいつは襖に描かれたあの白い金魚に魅入られてるんだった。かつて黒河の家で作られていた幻の金魚。真っ白な体に赤い目の希少な個体。どんなに冷たい水の中にいても、その虚弱な体は太陽の光で焼け死んでしまうため、月の光の中でしか生きられない白い蘭。
黒河の当主の部屋にある、襖に描かれた金魚に……言うなれば、
つまり
「探す手間が省けた。朱雀には感謝しねェとなァ。」
「……もしかして昔、朱雀の娘を貰い受けるにはどうすればいいか俺に聞いてきたのはこの事だったのか?」
「ああ、そーだよ。だから当主になったんだろォ?」
たしかに俺は
四家、そして黒河の家には
「黒鯨会の連中を集めろ。連中の嫁か娘か、適当な女を見繕って
「本当に嫁にするつもりか? それなら、側室も娶るべきだ。」
「俺は
「あの娘が子供を産めなかったら? 黒河の血を絶やしちゃいけない事くらい分かるだろ。お前の血が残せなかったら、黒河の跡は誰が継ぐ? 追放した妹が子供を連れて戻って来たら? 立場が危うくなるのは
俺の言葉を黙って聞いていた
「……なら潤清。
「……まあ、そういうことだな。」
俺には到底産めると思えないけどな。子供が作れた所で、虚弱体から健康な赤子が産まれるだろうか? 無事に産まれたとして、何事も無く育つだろうか? そもそも、あの細い身体が出産に耐えられるのか?
「……とりあえず、黒鯨会の人間は招集する。お前の結婚の話は、彼らにも関係があるからな。あの娘と結婚したいなら、俺だけじゃなく彼らも納得させないといけない事は分かるよな?」
「分かってる」
新海の立場を変えてくれた
まずは、あの娘の素性を詳しく知る必要があるな。
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