翠蓮曰く
私は初めて奥様にお会いした時、奥様はきっと
透き通るような白い肌と白い髪、そして神秘的な赤い瞳。潤清様が言うには、肌を出して太陽の下を歩くことができないとか。
今にも折れてしまいそうなほど細いお身体がとても儚げに見えたのを覚えています。
『──
どうして私が選ばれたのか、初めは分かりませんでしたが、奥方となられる御方と年が近しいことから選ばれたのだとお父様は言っていました。
でも本当は分かっています。お父様が今の当主様の事を快く思われていないことを。先代の当主様のご長男であられた
私は女ですので、黒鯨会には直接的に関わる事はできません。ですのでお父様やお兄様のように当主様に不満を持った事はありませんでしたが、それでも家族を躊躇いなく殺めてしまった当主様の事は恐ろしく思っていました。
お父様はきっと、隙を見て私が奥様に危害を加えるように仕向けたいのだと思います。そんな恐ろしい事私には到底できるとは思えませんでしたが、お父様に逆らう事もできません。仕方なく、お父様に言われた通りその日のうちに荷物を纏め、翌朝には黒河のお屋敷に出向きました。
黒々とした外観のお屋敷は何度見ても重厚感に溢れ、入るのを躊躇われます。意を決して戸を叩けば、少し待った
「本日より奥様の元でお世話になります、
「お待ちしていました、翠蓮嬢。彼女はまだ婚礼の儀を迎えていないので、奥様とお呼びしなくとも良いですよ。」
「し、失礼しました。では、なんとお呼びすれば……」
私が尋ねると、潤清様は少し困ったお顔をされました。
「……実は、彼女は少々特殊な生い立ちの方なのです。そのお話も彼女を交えてできたら、と思いますので、ひとまず向かいましょう。」
「承知いたしました。」
私にはよく分からないお話ですが、潤清様に従う以外ありません。少し不気味に感じるほど静まり返ったお屋敷の中に入ったかと思えば、すぐに縁側の方へ出てしまいました。
「肌寒くなってきたというのにまた外を歩かせてしまいすみません。屋敷の中はまだ片付いていなくて。」
「あ、そ、そうなんですね。」
片付いていない、というのはきっと、先代の当主様方を斬り伏せられた時のまま、という事なんでしょう……。想像して少し震えてしまいました。
「こちらになります。」
潤清様が案内されたのは、離れでした。潤清様の後に続いて、私も中に入ります。
「今日からあなたの身の回りの世話をしていただく方をお連れしました。」
「失礼します。」
離れの玄関を上がり、和室に入るとそこには今までに見たことのないような美しい人が、ちょこんと座っておられました。
不思議そうに私を見る瞳に思わず吸い込まれそうになったほどです。あまりにも綺麗な方だったので、初めはお人形さんかと思いました。けれどよく見ると毛先が跳ね放題だったり、肌や唇が乾燥されていたりするのが分かります。
「ほ、本日よりお世話になります、木津流翠蓮と申します。よろしくお願いいたします。」
「こちらこそお願いします」
慌てた様子で頭を下げられた後、不安そうに私と潤清様の顔を見比べられていました。
「早速本題に移りたいと思います。あなたについて、私の方で少し調べさせていただきました。まず朱雀家ですが、あなたの戸籍は既に無く入手できたものはあなたの産まれた年、月日程度です。」
このお話は私も聞いてしまって良いものかどうか、分かりません。それでも潤清様は構わずお話を続けます。
「あなたの名前を入手できなかった事から、そもそも朱雀にあなたの戸籍が存在していない可能性もありますね。“シロ”と呼ばれていたようですが、ただの渾名のようなものでしょう。」
「……そうなのですね」
もしかして先程私が奥様の呼び方について尋ねた時に潤清様が困ったお顔をされたのは、これが理由だったのでしょうか。
「……以上の事項を当主様にお伝えした所、あなたを黒河の籍に入れるとのことです。」
「私を、黒河の?」
「本日よりあなたの名前は“
「ゆえらん……」
「当主様より直々に頂いた名になります。お気に召しませんでしたか?」
「いいえ! とんでもないです! ありがとうございます」
奥様にはお名前が無かったけれど、当主様が付けてくださった名前を気に入られたようでした。婚礼の儀を執りおこなうまでの間、奥様のことは
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