夫婦の契り 1
私はきっとすぐに当主さまに斬り殺されてしまうと思ったけれど、もう三日ほどここにいる。今日は、身の回りを手伝ってくださる方を連れて来てくださった。
身の回りのお手伝いなんて私には身に余ること。でも、当主さまの伴侶となる人間に世話人の一人もいないのはきっとよくないことなのかも。
「私と当主様はこれから一週間ほど仕事で屋敷を開けます。食材など生活に必要な物は十日分ほどこちらの離れに用意しました。他に必要な物があれば本日中に申し付けてください。」
「ありがとうございます。」
必要な物……十分すぎるくらいだから、これ以上は無いはず。そう思う私の横で、翠蓮さまが「お風呂を見てきても良いでしょうか?」と潤清さまに伺っている。
「ぜひ。女性に必要な物に関しては私の方では分かりかねますので、翠蓮嬢が気になることがあれば今すぐにでも教えていただけると助かりますね。」
潤清さまと翠蓮さまが何かお話されていても、何のお話か私には分からない。きっと私のことなのに、申し訳なくなる。
「分かりました。後ほど届けましょう。では翠蓮嬢、あとは頼みましたよ。一応
「承知いたしましたっ!」
ほ、細い? このままだと貧相な身体で当主さまに恥をかかせてしまうのかも。
潤清様がいなくなられると、お部屋には私と翠蓮さまの二人だけが残される。女の人しかいない空間は、朱雀の家にいた頃を思い出した。
「あ、あの、至らぬ点ばかりではございますがよろしくお願いいたします翠蓮さま。」
「そんな、頭を上げてください
「ですが……」
「お願いいたします。その方が、
翠蓮さま……ではなくて、翠蓮が私の手をそっと両手で包んでそう話す。人の手がこんなにも温かいことを、今初めて知った。
「分か……った。翠蓮。」
「はい
どうして翠蓮は、初めて会った私に丁寧に接してくれるのだろう。朱雀の直系でありながら真っ白なこの髪を、傲慢にも鮮やかに赤いこの瞳を、決して責めたりしない。
私は緋彩お姉さまのように目を引くような人間ではないのに、「
「
「いいの。翠蓮のご飯はとても美味しかったから、たくさんあるなら明日も同じものを食べたい。」
私の髪を柔らかい布で拭きながら、翠蓮が朝ごはんのことを尋ねてくる。誰かと一緒に湯浴みをするのは初めてですごく恥ずかしかったけれど、温かいお風呂はとても気持ちがよかった。
「まさか
「気にしないで。いつもたくさんは食べなかったの。」
「だからこんなにも細くいらっしゃるのですね……翠蓮はとても心配です。お風呂も、水のまま入られようとされていた時は驚きました。」
朱雀の家にいた頃は外の水場で身体を清めるのが当たり前だったから、湯を沸かして入るなんて知らなかった。私が何も知らないばかりに、翠蓮に迷惑をかけてしまった。
「ごめんなさい。」
「謝らないでください
翠蓮の声が少し震えてた。私、翠蓮を困らせてばっかりだ。
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