朱雀の忌み子 4

四家を代表して来られてる人の中できっと女の人はお姉さまただ一人で、でもお姉さまは臆することなく堂々とされていた。


とうとうお姉さまの順番が回ってきた。私は何もしなくていいのかな。お姉さまが、黒河の当主さまを見てにこりと笑顔を浮かべた。



「朱雀からは我が妹を献上いたしますわ。知っての通り朱雀の娘は身体が強く、子を多く産めますの。四家の血筋の方でも朱雀の娘を花嫁に欲しがる所は多いわ。朱雀から祝いの品としてお贈りするものにこれ以上のものは無いと思うけれどどうかしら?」



どういうこと……? 縁談、ではなかったの……? 私は、朱雀から黒河に贈られる品物、ということ? あの琥珀という石や珊瑚、真珠と同じように?



「…………。」



黒河の当主さまの目が、私を見た。私みたいな人など要らないと思ったら、きっとその瞬間に斬られる。血を分けた親兄弟ですら殺してしまった人だもの。私を殺すくらい、何も思わない。



「あ、おねえ、さま、」


「何をしているの。早く当主さまにご挨拶なさい。」



腕を引かれて、黒河の当主さまの前に出される。四家の方々がいるというのに、慣れない着物に足を取られて転がるみたいになってしまった。


色んな目が、私を見ている。目の前から冷たい黒と青が、私を見下ろしてる。



「あ、お、お初にお目にかかります……朱雀……しろ、にございます……」



声が震える。畳についた手も震えてる。怖い。どうしよう。怖い。



「ああ、ご心配なさらないで。髪は白いけれどれっきとした朱雀当代の娘ですわ。この子は七番目の子なの。その証拠にほら、目はちゃんと赤いでしょう? 朱雀の初代はこれくらい赤い瞳をお持ちだったとか」


「ひっ……」



お姉さまが私の頬に両手を添えて、黒河の当主さまに向ける。冷たい瞳と目が合って、背中がぞわぞわ震えた。



「朱雀の娘が嫁入りするのは気に食わないかしら? 黒河に嫁入りした後は好きにしていただいて構わなくってよ。献上品、ですもの。」



つまりお姉さまは、「殺してしまっても構わない」と言ってる。四家の方々と、そのお手伝いの人たちもいるのに、誰も止めてはくれない。きっと黒河の当主さまが刀を持ち出しても、誰も助けてくれない。



「……もういい。てめェらの茶番に付き合うのは飽きた。さっさと消え失せろ。」



黒河の当主さまが、初めて口を開かれた。唸るような低い声に、また身体が震える。消えろ、というのは、私も?



「ええ。そうさせていただくわ。こんな陰気臭い所に長々とお邪魔しては悪いもの。わたくしの可愛い妹、せいぜい可愛がってちょうだいね。」


「お姉さま、」


「大事にしてもらえるといいわね。」



私の耳元でそれだけ囁くと、お姉さまは真っ先に出て行ってしまう。すぐには立ち上がれなくて、四家の方々に助けを求めようとしたけれど誰も目を合わせてはくれない。


私のことは誰も見ずに、みんな部屋を出てしまう。



「黒河の嫁は朱雀の娘ですか。羨ましい。些か細身過ぎる気はしますがね。新当主も子供に恵まれれば安泰ですな。」


「さすがは朱雀緋彩様。粋な贈り物をしなさる。どうです? 岩土の当代様に譲っていただくよう伺ってみては?」


「ご冗談を花杜殿。当主はすでにふっくらとした奥方を迎えられてますよ。」



誰か、誰か、



「あの、」



やっとの思いで着物の裾を掴んだのは、最初にお姉さまがお話していた海波の方だった。吸い込まれそうなほど青い目が、私を捉える。


助けて。そう言う前に、海波の方は私の手を自分の着物から外し、頭を下げて部屋を出てしまった。


残されたのは、私と黒河の当主さま。それと、当主さまに贈られた品物の数々。


振り返れば、あの冷たい瞳とまた目が合う。きっと今に刀を向けられるんだ。



潤清じゅんせい


「はい。」



当主さまが一言話すと、その奥の襖が開いて人が出てきた。灰色の髪を後ろに束ねた男の人。多分、さっきこの部屋まで私とお姉さまを案内してくれた人。当主さまと雰囲気が少し似ていて、怖い。



「離れにでも連れてけ」


「承知しました。」



灰色の髪の人が、私の方に近づいてくる。



「立てますか?」


「は、はい……」



どこに連れて行かれるんだろう。ここでも、物置に入れられるのかな?

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