朱雀の忌み子 3

「ふん。海波かいばの派生のくせに忌々しい。そのまま裏組織として大人しくしていればいいものを、わたくし達四家と肩を並べようなんて図々しい。」



お姉さまはその人が恐ろしくないのかな……。そんな事をもし黒河の人に聞かれたら、きっと朱雀の家も怖い目に遭ってしまう。


朱雀の家のように、帝さまから四方の土地の守護を任されてる家が他にある。朱雀、海波、岩土いわと花杜はなもりの四家。これくらいなら、私も分かる。黒河の家は、そこに加わるってことなのかな。



「まぁ、どうでもいいわ。黒河ごときに劣ることはないもの。いい? 嫁いだらお前はもう黒河の人間になるの。まさか朱雀に戻ろうなんて考えないことね。」


「分かりました……」


「もしかしたら、黒河はお前を気に入らなくてその場で斬り殺されてしまうかもしれないけど。」


「え……」



お姉さまは口元にうっすらと笑みを浮かべていらした。私が死んでしまっても悲しむどころか、きっと笑い者にするだろう。


それでも、逃げ出すことはきっと許してくれない。ずっと物置に閉じ込められてた私がやっと、朱雀の家から与えられた役目なのだから。斬り伏せられることになったとしても、行かなければ。



「やっと着くわね。退屈だったわ。当主代理でなければこんな所来なかったわよ。」



馬車が止まると、お姉さまは不満そうに降りた。私も早く降りないと、遅れたらまた怒られてしまう。


黒河の当主さまの所に行くまで、私はずっと目を伏せて歩いた。お姉さまに「いいこと? その目は伏せて歩きなさい。」と言われたから。


お屋敷は外から見ると真っ黒で、中も薄暗くてしんとしていた。朱雀の家よりも人が少ないような気がする。それとも、お話をする人が少ないのかな。案内をしてくれてる人の他に、まるで誰もいないみたい。


お姉さま達が立ち止まられて、初めて私は顔を上げた。当主さまがいるお部屋のふすまに描かれてるのはなんだろう。真っ黒で、大きな生き物。魚にも見えるけど、少し違うみたい。



「皆様は既にお揃いです。──朱雀様がおいでになられました。」



襖が開かれると、肌がピリピリした。空気が重くて息苦しい。そんな中をお姉さまは堂々と入って行く。



「遅くなってしまって申し訳ないわ。少々道のりが遠かったものですから。当主代理として参りました。朱雀緋彩ですわ。」


「…………。」



お姉さまの視線の先にいるのが、黒河の当主さま? 黒い髪に黒い目、でも右目は青くて顔に黒い模様が描かれてる……。お姉さまと同じくらいに見えるけど、とても怖い目つきをしててすぐに視線を逸らしてしまった。


どうしよう。きっと私はここで斬り殺されてしまうわ。



「朱雀も代理当主か。考えることはどこも同じみたいだな。」


「あら、あお様。ご自分達の血を分けた家に対し海波は随分冷たいのね。屋敷を離れられない朱雀の当主と違って、そちらは来られたでしょうに。」



お姉さまがお話してるのは海波の当主代理の方なの? ど、どうして海波の人たちもいるの? もしかして、他の人たちもみんな、四家の方たちなの?


何も分からない私を、海波の当主代理さまが見る。



「その娘は?」


「それは後ほど。楽しみにされていて。」



お姉さまが朱雀家の席に座られたから、私はその後ろに座った。縁談だと言われたのに、空気はずっとピリピリしててとてもそんな風には見えない……。



「これで皆様揃われましたな。では改めて黒河殿、黒河家四代目当主就任おめでとうございます。そのお祝いとしまして我々岩土が当主様からはこちらの琥珀を献上いたします。我が領地の中で採掘される物でも最高級の物を持って参りました。」


「これは素晴らしい琥珀ですね。さすが岩土様の領地。花杜からは胡蝶桜を百本贈呈したいと考えております。花杜の領地でも限られた場所にしか生息していない希少な種にございます。」


「海波からは南方の領海から採れた珊瑚と真珠を。せっかくの祝いですので最高峰の物を厳選致しました。」



キラキラした物が次々出てくる。お姉さまは一体何を出されるのだろう。


そういえば、ここにいる人たちはみんなお姉さまみたいに細くなくて、声が低い。これが、“男の人”なのかな。朱雀にいるのは女の人ばかりで、他のお姉さまや妹たちのお父さまを見たことないから、男の人がどんな姿をしてるか分からなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る